――唐突ですが、子供が出来ました。
名前はゼフィ。その子はアウラに似てとても可愛いらしく、そんな娘を持つことができる私は、きっと特別な存在なのだと感じました。
………………。
まぁ、冗談はこれぐらいにしておいて。
「……目覚めるのが楽しみだな」
俺は眠る我が子の顔を浮かべ、アウラからその話を聞かされた時のことを思い出していた。
* *
――「黄昏事件」、「Pluto Again」、「.hack事件」、「禍々しき波事件」。それらが表す共通の事件、“この世界の黄昏”からはや四年。この世界『The World』はプレイ人数がいよいよ2000万人を大きく超えて、空前の大賑わいを見せている。
あの事件以降、これといって目立った大きな出来事もなく、世界は何事もなかったかのように日々を繰り返している。その陰でアウラが様々なシステム運営をしていたことは言うまでもない。
何といっても、サービス提供元のCC社でさえThe Worldの運営部署など存在しないぐらいだ。CC社はあくまでシステムサポートと既にそこにある世界の管理ぐらいしかできない。運営、基幹システムは全てアウラが一手に担っており、CC社は文字通りに提供しかできない会社なのだ。
そしてあの事件から四年。俺は今年ついに大学を卒業しようとしている。大学で専攻していたのは電子技術、人工知能、仮想現実世界について、などなど。とりあえず電子とつくものには片っぱしから手を出してきた節操なしが俺だった。
しかし、その全てで俺は一度も手を抜くことはなかった。俺は全力全開でそれらの技術を習得、自分の中で昇華させていった。その功績が認められて、大学院ではほとんど俺のためだけともいえるような研究場所も与えられた。
もちろん、同じ研究科から仲間が手伝ってくれているが、研究題目は俺の私用だ。まぁ、実現すれば確かに色々応用は利くだろうから、相互の利害一致ゆえの措置なのだろうが。
目下、俺が実現を目指しているのは“電子上に存在するAIを現実世界に物理的に存在させられないか”というものだ。何を馬鹿な、と思うかもしれないが、意外にも学会の多くの人間はこれに関心を示した。
というのも、四年前に実際に「The World」というゲームが現実に影響を与えたことを彼らは知っているからだ。六人の意識不明者、横浜でのネット災害。それらの原因がThe Worldの最後の謎にあった、というのは多くの場で議論を呼んでいる。
とはいえ、その真実をCC社は公にしていないし、俺たち.hackersのように真実に触れた者達も一様に口を閉ざして黙秘している。その事実が明るみに出ることはないだろう。
だが、関心を引いただけでは研究室が与えられるほどの待遇は受けない。では何故石のように頭の固いお歴々連中相手にそんな待遇を得られたかというと。
話は簡単……俺の過去を明かしたのだ。
すなわち、「俺はかつて.hackersとして最後の謎に向き合った」という確かな過去だ。
これには彼らは大いに驚き疑ったが、俺が持っているPCを始めとする幾つかの証拠を見せると納得した。俺のPC――“蒼き盾”アイギスはThe Worldでは有名な存在だったし、CC社のはからいにより、俺と同じエディットのPCはほかに存在し得ないからだ。
彼らはそれで俺の研究を後押しし始めた。あの事件の真実を知る者。もしかしたら、あの時の出来事を研究成果という形で再現できるやも、と考えたのだ。
電子上の存在を物理世界に影響させる。確かに可能になればその有用性はいかほどのものだろう。とにかく、俺はそうして彼らの興味を引き、彼らからこの場所を分捕ったのだ。何が何でも、あの時の約束を形にするために。
……だが、この前あまりにも研究にのめりこんで疲れの取れぬままログインした時。俺はアウラの目の前でばったりと倒れてしまった。数分後に意識を取り戻した俺は、こっぴどくアウラに叱られた。そして無理をしないこと、と言い聞かせられ、それからはほどほどに休みを取るようになっている。
ちなみに、俺は研究室でログインすることはない。研究仲間たちは信用しているが、それでも“最後の謎”そのものであるアウラを彼らに見せるわけにはいかなかったからだ。
というわけで、俺はアウラに会う際には自宅からしかプレイしない。前述の理由はもとより、そのほうが落ち着けるし、なによりアウラとの時間をゆったりと過ごせる。The Worldは今や俺たちのデート場所みたいになっていた。ハロルドが見たら泣くかもしれん。
あ、最後にひとつ。もし俺の研究が成果を見せても俺は彼らにそれをそのまま渡す気はなかったりする。最悪の場合、何も出来なかった、と報告する気でいるほどだ。
俺としてはアウラとの約束が果たせればいいのだ。その技術が下手に使われるようなことが懸念されれば、公表するのはかなり先のことになるだろう。
そうなった場合、学会や業界からは追放になるだろうが、それならそれでどこにでも就職してやる。こんな一歩間違えば危険な技術、そんな真っ黒な予定に使おうとする連中に渡せば何をするかわかったものじゃない。だからこそ、研究仲間にも根本に関わる部分はかなり気を遣って取り扱っていたりする。
――と、いうのがいま現在の俺のリアルでの状況である。もちろんThe Worldでも俺ことアイギスは健在だ。まさに今ログインしている最中だし。
で、俺は見慣れたアウラの自室(というか、アウラ専用エリアと言うべきか)でアウラの隣に座っている。本来ならカイトの腕輪でゲートハッキングしなければ来れないらしいが、俺には何のプロテクトも働かずにすんなり通してくれる。それだけ信頼されていると思うと、いや嬉しいじゃないか。
そのために俺にはアウラからここにつながる直通のエリアワードをもらっている。そのワード三つの中の最終ワードは本来は存在していないので、真実その方法でここに来られるのは俺だけなのだ。
……だが、エリアワードが『隠されし 禁断の 愛の巣』というワードは如何なものか。
どうやらネット上で見つけたドラマから得た知識らしいが……俺の反応が何とも言えないものになってしまうのは致し方ないだろう。
いつもこのワードを打ち込む時の俺の微妙な気持ちを察してほしい。アウラは俺がなぜこのワードを前に微妙な表情になるのか分からないようで、キョトンとしていたが。ちくしょう、可愛いなコノヤロウ。
そんなわけで、いつも通りに微妙な顔でワードを打って訪れたアウラの部屋。そこで、俺はアウラから聞いたわけだ。
――あなたとの子供が出来た――
と。
はっきり言って俺は動揺した。だってそうだろ? いきなり付き合っている彼女から「あなたとの子供が出来たの」って言われるのを想像してみろよ。普通に考えて時が止まるだろ。まさにザ・ワールドだ。いや、何を言ってるんだ俺。
とにかく、俺はそんな感じに大いに動揺して固まってしまったのだ。アウラがひらひらと手を俺の前で振ってくれたらしいが、記憶にない。それほどに俺にとっては大きな衝撃だった。
そして、しばらくして意識を取り戻した俺は、アウラに尋ねた。どういうことだ、と。
そもそもAIである彼女とその……そういった行為が出来るわけはないので、子供が出来ようもないからだ。冷静に考えればすぐにわかることだったな、うん。
それにアウラは、静々と語ってくれた。
「……私は、多くの人を知ることで成長してきた。司、カイト、リコリスのような放浪AIの子たちの記憶……。それから、あなたと過ごした日々……」
微笑んで言われて、俺は頬をかく。こうもストレートに言われることにはついぞ慣れることはない。
「友達も、仲間も、恋人もいるけど……。“お母さん”になったことはないから。そう思っていたから、あの子は生まれた。まだ、外で活動できるほどじゃないから、今は眠ってるけれど」
「……つまり、お前の母親としての意識が生み出した存在、ってことか?」
俺の言葉に、アウラはこくりと頷いた。
「まだ母親としては何も分からない私。母親としての私は、想像も出来ない。……だから、私はあの子を外に送るつもり。あの子が一体どんなことを経験して、どんなことを思うのか。私は、それを見てみたい」
アウラは何を考えているのか分からない表情でそう言った。あれから四年、アウラの考えていることならほとんど読み取れるぐらいには親しいつもりの俺が、何も読み取れない表情で。
そんな表情を浮かべるアウラに、俺は少しだけ疑念が残る。それに、生まれたばかりの子供をいきなり外に出すというのも、あまり良くないように思う。
「……アウラ。けど、まだ何も知らない子供をいきなり一人で外に出すのは可哀想じゃないか? 何をしたらいいのかもわからないだろうに。まずはアウラが母親として色々と世話をしてからじゃないと――」
ダメなんじゃないか。
そう言おうとしたところで、俺の言葉は不自然に途切れた。
目の前のアウラが、いつの間にかとてつもなく不安そうな顔をしていたからだ。
「……不安なの。私は、母親としての経験は何もない。“お母さん”は、私を憎んでいたし、どんなものなのかよく分からない。だから、どうすればいいのか、どうしてほしいのか、私はあの子に聞いてみたい。私は、どうしたらいいのか分からないから……」
本当に不安なのだろう、アウラは膝を抱えてうずくまり、顔を伏せてしまった。
この世界のシステムそのものである、創造神アウラ。彼女でも、どうにもならないことがあるのだと俺は改めて知った思いだった。わかっていたつもりでも、それは本当に理解していなかったのかもしれない。やっぱり、アウラはこの世界の神なのだという意識は確かに俺の中に存在していたから。
だが、今のアウラはどうだろう。どうしたらいいのかわからない、と言って俯く姿は人間と変わらない。子育てに不安を抱える一人の女性だった。
過去、アウラの母親にあたる“モルガナ”はアウラを憎んでいた。自らの場所を奪い取る怨敵としてアウラのことを殺そうとしていた。アウラもまた、内心でモルガナを慕いつつも大敵として彼女と対し、The Worldの安定を目指した。
カイトに腕輪を託し、母親を消した彼女は何を思っていたのだろう。今まで何も聞いてこなかった俺を、思いっきりぶん殴りたい気分だった。
しかし、それは今すべきではない。あとでリアルに帰ったら目一杯殴っておこう。それよりも、今は隣で俯くアウラのことが先決だった。
俺は隣で下を向くアウラに身体を寄せると、ぽん、とその頭に手を置いた。俯いたままのアウラに話しかける。
「まぁ……その“お母さん”を倒してしまった俺が言うことではないのかもしれないけど、さ。アウラがそうやって不安に思うのも無理はないよ。お前は、母親の愛っていうのを知らなかったんだもんな」
頭を撫でつつ言ってやると、アウラはこくりと頷いた。子供のような仕草に苦笑しつつ、話を進める。
「それなら、一度やってみるといいさ。外にいる時は、その子は俺が守ってやる。お前の子供なら当然、父親は俺だ。娘を父親が守るのは当たり前だからな」
はっと顔を上げて、アウラは俺を見た。
「アイギス……」
「それなら、俺も納得できるし、アウラも安心できるだろ? それでどうだ」
「うん。ありがとう……」
「言ったろ。当たり前のことだって」
笑ってアウラの頭を一層撫でてやれば、アウラは目を細めて頷いてくれた。もう一度、ありがとうと小さく呟いて。
それからしばらくはお互いに身を寄せ合って座っていた。が、不意にアウラが立ち上がることでその時間は終わりを告げる。
突然立ち上がった彼女に、俺は当然の疑問を投げかけた。
「どうした?」
「……あの子の様子を見てくる」
ふわりと微笑んでアウラは言った。
どこか楽しそうに言う彼女は、とても育児に不安を抱える母親には見えなかった。純粋に子供が生まれるのを心待ちにしている、そんな顔だ。本当に、アウラは母親としての自分に不安があるだけなのだと感じる。子供のことは、やはり愛しているのだ。
「んじゃ、俺も付き合おうかな」
「アイギス……?」
なぜ、と問いかけてきそうなアウラの視線に俺はあからさまに肩を落としてみせる。
「いや、だから俺は父親……」
「うん。わかってる。冗談だから」
くすりと笑ってアウラは俺に背を向けて歩きだした。アウラの部屋の奥へとつながる道を楽しげに歩く彼女の後姿を見ながら、俺はアウラの余計な方向への成長にちょっと涙したりしていた。
それでも微笑ましい成長だと割り切って、慌てて彼女に追いついて横に並ぶと、“その子”の今後についてアウラと話す。
「ところで、俺が守るにしても限界はある。最近のCC社の『騎士団』にいい噂はないしな。バルムンクがいくらか抑えているみたいだが、あいつはあくまで一社員。そこらへんはどうするんだ?」
「大丈夫……」
ぺたん、と裸足の彼女の足音が廊下の終わりを告げる。その先には木々が生い茂る緑の部屋。その中央に置かれた白いベッドの上で、金髪の幼い少女が目を閉じて横になっていた。
アウラはその子に優しげな目線を向けたあと、天井のない青空を見上げた。そして、楽しげに口を開く。
「……古い友達に、プレゼントを送るから」
「友達? プレゼント?」
俺が怪訝に繰り返すと、アウラは俺の耳に顔を寄せてぼそぼそと言葉を告げる。それを聞いた俺は、思わず声を上げた。
「そっ、そんなもんプレゼントするのかぁ!? っていうか、データコピーしてあるのかよ!」
「ふふ……。もちろん、あなたのデータもバックアップがあるわ」
と言うより、あなたの仲間は全員だ、とアウラは付け加えた。俺はそれを聞いて思わずため息をついた。何ともはや、どう言うべきか。それだけアウラにとってあいつらや俺が特別なのか、それとも世界を守ってくれた恩のためか。
「彼にも渡すわ。黄昏でも、薄明でもない新しい腕輪を」
アウラはさらに言葉を続けた。しかし、その内容は流石に聞き捨てならないものだ。俺は弾かれるように顔を上げて真剣な表情でアウラの目を見つめた。
「……もう一度、勇者を作るのか?」
「ええ。あの子の守護者としても、この世界を知る為にも、力は必要。……それに、彼の夢でもあったもの」
楽しげに未来を想像する彼女は、本当に幸せそうで、俺も思わず頬が緩む。しかし、そこに俺以外の男が絡むとなれば、内心ちょっと穏やかじゃなかったりする。
いくらそいつが子供だからって、面白くはない。心が狭いとか言うな。
そんな俺を見て、アウラはより面白そうに笑った。そして俺の隣に来て俺の手を取る。俗に言う恋人繋ぎというやつだ。それだけでさっきのことなどうでもよくなってしまう俺は相当に単純なのだろう。アウラもそれと判ってやっているので、侮れない。
機嫌良く笑う彼女は、手をつないだまま眠り続けるその子の前まで俺を連れていく。上から穏やかに眠る少女の顔を覗き込み、その無邪気な可愛さに顔は自然と笑みを作っていた。
「……この子は、私とあなたを“親”だと認識しているはず。この子に会ったら、助けてあげて」
「ああ。もちろん、やってやるさ。父親として」
最後を強調するように言ってやれば、アウラは嬉しそうに笑って、お願いね、と俺の頬に口づけをした。
俺も彼女の頬にキスを返し、ふと、そう言えば聞いていなかったことをアウラに尋ねる。
「そういえば、この子の名前は?」
アウラは、そっと少女の顔にかかった髪を整えてやりながら、囁くような声でその名を告げた。
「――ゼフィ。西から吹くこの世界の追い風。ゼフィよ……」
アウラが告げた少女の名前を、俺は口の中で転がすように言葉にする。ゼフィ、と呟いてみれば、それはこの幼い少女にとても似合った名前だと漠然と感じられた。
俺はアウラと同じようにゼフィの顔に手をやり、その柔らかな頬に撫でるようにして触れた。
「……これからよろしくな、ゼフィ」
風と、自然だけがあるこの部屋で、俺とアウラは幼い娘の髪と頬をただ撫でていた。じっと眠り続けるこの子に、この世界の祝福がありますように。そう願う。
――夕暮竜の加護のあらんことを――
指を組んで瞳を閉じた彼女が呟いた言葉が、静かなざわめきとなって部屋の中に響く。俺は彼女と並んで立ちながら、同じように目を閉じて目の前の子の幸福を祈るのだった。
* *
アウラとの新たな約束を交わしたのち、暫くしてからある噂がネット上を駆け巡った。
曰く――、“伝説の「.hackers」。その判明している三人のうち、カイトとブラックローズのデータがCC社の抽選キャンペーンで公開される”。
その情報が流れてからは、俺の接続する時間は極端に増えた。アウラに会い、事情を聞きながら、噂の限プレ(限定プレゼント)は誰が手にするのかと騒ぐ街を歩く日々。
本当のところCC社はそんなキャンペーンは行っていない。それに、抽選と言いつつもこれは出来レースだ。
アウラは電子上では無敵の存在。彼女はネットワークを介し、かつてその友達から聞いた「れな」と思われる少女がThe Worldにログインしていたことを知り、そこから自宅にハックしてその兄にしてアウラが言う友達――シューゴの所在地を突き止めていたのだ。
もしその「れな」が人違いだったとしても、アウラはいずれシューゴを見つけていただろう。もう一度言うが、アウラは電子上で無敵の存在なのだ。彼女に手に入らないデータはネットワーク上に存在しない。
だから、あとは時期を見て彼らに当選のメールを送るだけ。それで全ては始まる。
ちなみに、なぜ限プレの中に初期メンバーの一人である俺のPCがないかというと、数が合わないからだ。それと、アウラのわがままの結果である。なんでも、俺のPCは自分だけの特別、なんだそうだ。嬉しいことを言ってくれるじゃないか。可愛さ余って思わず彼女を抱きしめてしまったことは記憶に新しい。
とはいえ、一般プレイヤーの間ではそこは謎として広まってもいる。どうして「アイギス」は公開されないんだ? と。
「.hackers」のオリジナルメンバーが、カイト・ブラックローズ・アイギスの三人だというのは既に広まっていることである。だからこそ、彼らは不思議に思っているのだろう。
とはいえ、流石に本当のことは言えないので、そのことについては一生謎のままでいてもらおうと思う。
「……さて。いつ来るかな」
アウラは今日こう言った。ついさっき彼らに当選のメールを出した、と。
ということは、今日。遅くとも、たぶん明日には来るだろう。そして、彼らがThe Worldに入ったら俺にメールをくれるようにアウラには言ってある。遠からず、シューゴとれながここに来た、という連絡が届くはずだ。
カイトとブラックローズが再びこの世界に訪れる。それはまるで、四年前のように。
あの時と違うのは、その初期メンバーに俺がいない、というところか。何となく寂しいものがあるが、それも仕方ない。だったら、せいぜい彼らを助ける存在として頑張るとしますか。
「と、いうわけで」
俺は早速仲間たちにメールを送っておく。ふふふ。これを見て、どんな反応をするだろうか、かつての仲間たちは。全員に送っても来れるかはわからないので、主要メンバーを中心に送っておく。
……メール送信を終えるコメントが流れ、俺は一息吐いた。
「ふぅ。さて――」
にっ、と口元を歪めて笑う。
「伝説の再来だ――!」
* *
「メール……?」
CC社のオフィスで、彼はおもむろにメールボックスを開いた。
『件名:麗しき仲間たちへ』
* *
「……ほう。懐かしい者から送られてきたものだ」
あるタウンの酒場で、熟成した雰囲気を漂わせる男がメールを見る。
『差出人:アイギス』
* *
「あら。アイギスから……?」
かつて明るい呪紋使いだった女性が、笑みを浮かべる。
『内容:女神の夫よりみんなに報告! 心して聞くように!』
* *
かつて、カイトと、ブラックローズと、アイギスとともにこの世界最後の謎に挑んだ者たち。かつて、彼らとともに世界を駆け、この世界を守り、女神を誕生させた者たち。彼らは、一斉に送られてきたメールを見て、笑みを深めた。
それは、なんとも彼らの知る仲間らしい言い回しの言葉から始まり、そして非常に簡潔にまとめられていた。内容が乏しいところも、彼らが知る彼らしい。
メールは短く、次の二言で終わる。
『――さあ、諸君! 伝説の再来だ!』
そのメールを見て、誰がどう反応をするのか。彼らを見つけ、彼らに手を貸すのか。はたまた、彼らの成長を見届けるために馳せ参じるか。どうするかは皆の自由。
そんな彼らから遠くの地。二人の兄妹によって、新たな伝説は始まりを告げる。
女神は我が子と世界を想って、再び人間に助けを求めたのだ。今度はいつかよりも穏やかな助けを。
物語は動き出す。既にこの世界に足を踏み入れた彼らの物語は、決して止まることはない。
黄昏の腕輪をめぐる物語は、ここに再び回り始めたのだから――。
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