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明日は良い日 ~Hope For Tomorrow!~
キュアラブリー「世界に広がるビッグな愛! 現れろ《No.11 ビッグ・アイ》!」
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遊戯王GXへ、現実より:第34話 エド
 一面が白で覆われた一室。
 その中心に据えられた、これも白いテーブルクロスによって彩られた丸テーブル。その前に座り、厳しい表情をした斎王はテーブルの上に置かれたタロットの山札から一枚のカードを引いた。
 そして、それを静かにテーブルへと配置する。

「――『審判』の正位置。その意味は、運命による導き。時は今、望む通りに進もうとしているということか」

 それはつまり、斎王にとっては都合のいい結果と言える。
 しかし、それでも斎王の顔から憂いは消えない。
 その目線が、テーブルの端に置かれたカードへと注がれる。そこに置かれたカードは、『塔』の正位置。それはつまり、遠也を表すカードだった。

「このイレギュラーがどう働くか。恐らく、当初には見られなかった変化も起こるだろう。……だが」

 斎王はカードを一纏めにし、シャッフルする。
 そして、山札としてそれらをまとめると、定められた位置へとカードを上から引いて配置していった。
 その後、並べ終えたカードの中から1枚に指をかける。

「フフ、根幹にある運命は、変わらない。……変えられない」

 斎王の手に取られたカードがテーブルの上で反転され、その絵柄を光に晒す。
 そこにあるのは、正位置の『審判』。
 その結果を斎王は満足そうに笑んで見ていたが、最後に何事かを小さく呟いた時の表情はどこか悲しげでもあった。




 *




 そういや俺は今学期、途中からアカデミアにやって来たわけなのだが……その間にも色々と学内では動きがあったらしい。
 たとえば、万丈目は先日ブルー寮昇格を蹴ってレッド寮に残ったし、ブルーにはアイドル育成コースなるものが新設された。
 そして、俺が来て以降の話題としては、クロノス先生とナポレオン教頭がレッド寮を潰そうと画策しているという話に、翔に持ち上がったイエロー昇格の話がある。
 ちなみに、翔はしっかりイエローに昇格した。
 昇格を賭けたブルーの女子生徒とのデュエルは終始危なげないプレイであり、翔の悪い癖である調子に乗るということもなかった。
 翔曰く、「お兄さんのデュエルから何も学ばない、そんな弟じゃ申し訳ないからね」とのこと。ちょっと照れくさそうに言った翔の姿は、一年前とは違ってどこか頼もしくも見えるものだった。
 そして翔はイエロー寮に行ったが……十代の弟分であることは変わりないらしい。今でも普通に泊まりに来るし、というかむしろイエローのほうこそたまに帰る程度である。
 それでいいのかと思わなくもないが……レッド寮に行けば十代と翔がいるという状況に慣れきっている俺からすれば、それでこそらしいとも感じる。だから、まあいいかとも思うのだった。




 さて、そんなこともあった俺たちは今レッド寮内を改築した大きな一室に集まっていた。
 十代、翔、万丈目、剣山、明日香、吹雪さん、三沢、レイ、俺、マナ。10人もの人間が余裕を持って一室に収まるなんて、少し前のレッド寮なら考えられなかった快適さである。
 ちなみにこれ、万丈目のおかげである。
 所属がレッドに固定された万丈目は、レッド寮を盛大に改築したのだ。外観は変わらない癖に、二階部分までぶち抜きかつ地下まで少し掘って手を加えられたその部屋は、レッド寮の一室の三、四倍はありそうなほどに広く立派な部屋である。
 ソファにプラズマテレビ、ロフト付きのベッドまで備え付けられたそこは、はっきり言ってブルー寮の部屋よりも豪華だった。というか、これで外観一緒ってもはや詐欺じゃなかろうか。
 そしてこの部屋、万丈目の部屋なのだが住人は明日香である。もちろん、万丈目はわざわざ違う部屋に移った。
 というのも、明日香はブルーに新設されたアイドル育成コースに入れられそうだったから、逃げてきたとのこと。万丈目は惚れた弱みからか、せっかくの部屋を明日香のために差し出したのだ。
 というわけで、俺たちは現在明日香の部屋に集合していることになるのである。
 まぁ、その広さから明日香も自分の部屋というよりは皆の集合場所と認識しているようだが。


 ……で、今の俺たちが何故集まっているのかというと、カイザーとエドのデュエルが今日だからなのである。
 本当はアカデミアの教室一室を使い、中等部と高等部それぞれで視聴会が開かれているのだが……俺たちはレイも含めて仲間たち全員で見たいということで、こちらに集まっているのだった。
 さて、そんなわけで二人の熱いデュエルがこれからついに始まる……と言いたいが、ぶっちゃけ、そのデュエルは既に先程終了しました。

 ――カイザーの負け、という形で。

 まさかカイザーが負けるとは誰も思っていなかったのだろう。
 翔は当然として、誰もがその事実に打ちひしがれ、デュエルが始まる前までは明るい空気で満たされていたこの部屋は、今やどんよりと重たいものが沈殿する暗い雰囲気によって覆われていた。


 ということはなく。


「あっちゃー! カイザーもついに負けちまったかぁ」
「お兄さんにも勝つなんて、あのエドって奴やっぱりかなりの実力っす」
「カイザーの名は俺でも知ってるドン。それに勝つなんて、ただ者じゃないザウルス」
「そうね。亮に勝つのは、並大抵のことではないわ。それは、これまでの連勝が証明している」
「そうだね。その亮に勝ったんだ、これは十代くんが負けたとしても不思議じゃなかったか」
「ちっ、これであの一年にまた更に箔がついたわけか。この俺を差し置いて」
「ひがむなよ、万丈目。まぁ、俺としても今回のデュエルは参考になった。十代と同じHERO使いということもわかったし、今後の糧にさせてもらうさ」
「カイザーくんは残念だったけどねー」
「うん、まさか亮先輩が負けるとは思わなかったけど……」
「まあな」

 以上、十代、翔、剣山、明日香、吹雪さん、万丈目、三沢、マナ、レイ、俺の言葉でした。
 その言葉にはどれもカイザーの負けを惜しむ響きがあるが、しかし落胆したりすることはなかった。
 ……まぁ、剣山とレイを除くみんなは俺がカイザーに勝つところを何度も見てるからな。カイザーが負ける姿も、ある意味見慣れているんだろう。
 ちなみに同じ理由からカイザーもそれほどショックではなかったのか、終わった後にエドに歩み寄って笑顔で握手を求めていた。
 マイクが拾ったその時の会話は以下の通り。

『ありがとう、エド。見事にやり込められたのは悔しいが……だからこそ俺に足りない部分がわかる、いいデュエルだった。だが、俺はアカデミア時代から負けた分は必ず取り返す主義でな。次は、俺が勝たせてもらう』
『あ、ああ……』
『おーっと、カイザー亮! たとえ負けても相手への敬意を忘れない! そして次回の勝利宣言まで飛び出したぞぉ! クールに見えてなんて熱い男なんだぁ!』

 と、そんなわけで会場はさらに盛り上がってカイザーコール。実に盛況であり、その場に行きたかったほどだった。
 ちなみに、握手を求められたエドはそんなカイザーの態度に何故か戸惑いを隠せないようだったが。
 そういえば、原作では確かカイザーって勝てば官軍みたいな性格に変わっていたはず。その切っ掛けが何時だったのかまでは覚えていないが……このカイザーもいつかそんなふうになるんだろうか?
 もしなるとしたら、どんな大事件だったんだろう、原作のイベントって。うろ覚えの記憶しかなくてその切っ掛けが思い出せないのが悔しいぜ。
 ちなみにその後、エドは勝利者インタビューの中でこう告げた。『真のHERO使いを決めるデュエルを、アカデミアのHERO使いに申し込む』と。
 これは、完全に十代への挑戦状だ。
 それを聞いた俺たちは一斉に十代を見る。そして十代は画面に向けて、お決まりのガッチャのポーズを決めると立ち上がった。

「よっしゃあ! 俺の知らないHEROと戦えるなんて最高だぜ! 早く来い、エド! きちんと決着をつけようぜ!」

 以前の手を抜かれたデュエルのことを言っているんだろう。納得のいかないデュエルだったことは十代自身も言っていた。
 その決着をようやくつけられる、それも互いにHEROを使って。
 それに心躍らせないようでは十代ではない。更に今、相手はカイザーにも勝ったのだ。そのモチベーションは最高潮に達していると言っても間違いではなかった。

「そうと決まれば早速デッキの調整だ! いくぜ、翔、剣山!」
「ま、待ってよ兄貴!」
「丸藤先輩はここにいるザウルス! 俺が兄貴に必要とされているドン!」
「名前を呼ばれたのは僕が先だったでしょうが!」
「うっさいザウルス!」

 二人は言い争いながら十代の後を追って行った。相変わらずの二人だな、あの弟分コンビは。

「えーっと、十代さんたち行っちゃったけど……どうするの?」

 三人が勢いよく飛び出していったのを見送ったレイが、俺に振り返って尋ねてくる。
 どうするったってなぁ……。

「とりあえず、カイザーのデュエルも終わったことだし、ここらで解散にするか?」

 俺が全員の顔を見回しながら言うと、それに対してそれぞれから答えが返ってくる。

「だな。十代たちもいなくなったし、俺もひとまずイエロー寮に戻ることにするよ」
「なら、俺は散歩にでも行くか。どうせ部屋に行っても十代たちがいるだけだしな」

 三沢と万丈目がそう口にしてソファから立ち上がる。

「うーん、僕は明日香とちょっと話がしたいなぁ。いいかい?」
「いいけど……アイドル育成コースには入らないわよ」
「それもいいけどね。たまには兄妹の絆を深め合おうじゃないか、妹よ!」
「はぁ……」

 ばっと両腕を広げて言う吹雪さんに、明日香の返答は溜め息である。これはひどい。
 まぁ、なにはともあれこれでひとまずは解散ということでいいか。

「んじゃ、俺は部屋に戻ってデッキでも触ってるかな。マナとレイはどうする?」
「私は当然、遠也に付き合うよ」
「ボクも! あ、それとボクのデッキにアドバイスをもらってもいいかな? こういうカードがいいとか……」
「それぐらいお安い御用だ。ふふ……《死者蘇生》なんてどうだ?」
「あの、そのカードもう入ってる……」

 俺の台詞にたらりと汗を流して苦笑するレイだった。
 そんなわけで、この日はこれでお別れと相成った。まぁ、どうせまた明日には同じメンバーで集まるんだろうけどね。雑談しに。
 そんな取り留めもない日常の中、俺たちはのんびりとそれぞれの時間を過ごしていくのだった。




 *




 ――翌日の、早朝。
 俺達は全員が早起きをしてアリーナに向かい、その中に備えつけられたデュエルステージへと目を向けていた。
 そこに立っているのは、十代とエド。
 先日に行われたカイザーとのデュエル後に十代に対して挑戦状を叩きつけたエドは、その夜に既にアカデミアにやって来たらしい。そして、その場で十代に翌日の早朝にデュエルを行う旨を告げたようだった。
 観客は十代と親しい人間、そしてクロノス先生とナポレオン教頭のみ。そんな実に物寂しいアリーナの中で、二人は向かい合っていた。

「きゃー! エド様ー!」
「本当に素敵ですわー!」

 そんな静謐な空気を読まず、エド側の席で歓声を飛ばすジュンコとももえ。
 か、完璧に裏切ってやがる。まぁ、必ずしも十代の応援をしなければいけないわけじゃないけどさ。
 ともあれ、俺、マナ、レイ、明日香、吹雪さん、万丈目、三沢、翔、剣山といった面々は十代の側の席から静かにそんな二人を見ていた。

『それではこれより、遊城十代とエド・フェニックスのデュエルを行うのでアール』

 マイク越しにナポレオン教頭の開始の宣言が行われる。
 それを受けて、ステージ上に立つ十代とエドは各々のデッキをディスクにセットした。

「エド! 同じHERO使いとして最高のデュエルにしようぜ!」
「どちらが真のHERO使いか、決着をつける!」

 互いの意気込みを込めたそんな言葉の後、二人は口を揃えて宣言する。

「「デュエルッ!」」

遊城十代 LP:4000
エド・フェニックス LP:4000

「僕の先攻だ、ドロー! 《E・HERO クレイマン》を守備表示で召喚! ターンエンドだ!」

《E・HERO クレイマン》 ATK/800 DEF/2000

 エドの場に現れる、俺たちにとっては見慣れたモンスター。
 カイザーとのデュエルで知ってはいたが、やはりこうして十代と相対している人間の場にHEROが召喚されていると、若干の違和感を覚えてしまう。
 それは皆も同じようで、どこか神妙な顔をしていた。

「俺のターン、ドロー! 俺は《融合》を発動! 手札のフェザーマンとバーストレディを融合し、現れろ《E・HERO フレイム・ウィングマン》!」

《E・HERO フレイム・ウィングマン》 ATK/2100 DEF/1200

 そして十代にとってはお馴染み、初手融合である。
 召喚されたのは十代も頼りとするモンスターの1体。その攻撃力はクレイマンの守備力を超えている。

「いけ、フレイム・ウィングマン! クレイマンに攻撃! 《フレイム・シュート》!」

 フレイム・ウィングマンによって、エドの場のクレイマンが破壊される。そして、更にフレイム・ウィングマンの効果が発動。破壊した相手の攻撃力分のダメージを与える効果により、エドのライフポイントが削られた。

エド LP:4000→3200

「俺はこれでターンエンドだ!」

 十代が威勢良くターンの終了を宣言する。
 初手は十代が握ったか。だが……なんだ、この嫌な予感は。エドから感じる、この妙な雰囲気は。

「……マナ」
「なに?」
「いや、なんでもない」

 何か闇の力が関わっているのかもしれない。そんな予感からマナに呼びかけてみるが、しかしマナは何も感じ取ってはいないようである。
 俺より遥かにそういったことに敏感なマナが察していないということは、俺の気にしすぎなのだろうか。どこか釈然としないものを感じつつも、俺はそのまま二人のデュエルを見守った。
 その後、エドも融合を使いフェニックス・ガイを召喚。フレイム・ウィングマンを戦闘破壊する。その後十代はバブルマンの効果によってドローし、更に戦士の生還によってテンペスターを召喚してエドにダメージを与えた。
 対してエドはシャイニング・フェニックスガイを召喚し、テンペスターを破壊。と思いきや、今度は十代がミラクル・フュージョンによってシャイニング・フレア・ウィングマンを召喚し、ライトイレイザーとスカイスクレイパーのコンボでシャイニング・フェニックスガイを倒してダメージを与え……。
 まさに一進一退の攻防を繰り広げた。
 それにより、現在は十代の場にはライトイレイザーを装備したシャイニング・フレア・ウィングマンが。エドの場には伏せカードが一枚あるだけである。

《E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン》 ATK/2500→3700 DEF/2100

十代 LP:2800
エド LP:1800

 HERO同士がしのぎを削る。その状況に十代はワクワクした表情で、エドに声をかけた。

「楽しいな、エド! HERO同士が全力でぶつかりあう、こんなに楽しいことはないぜ!」

 だが、その返答は十代とは真逆のものだった。

「楽しい、だと……。笑わせるな、十代!」

 エドは怒りさえ滲ませた表情で、十代の考えを一蹴した。
 HEROとは戦いに使命を、理由を背負う者。その理由さえ解さず、ただ憧れだけでHEROを使うお前は、真のHERO使いではない、とエドは叫んだ。

「罠発動! 《D-タイム》! このカードは、自分の場のE・HEROがフィールドを離れた時、デッキからそのモンスターのレベルと同じレベル以下の「D-HERO」を手札に加えることが出来る! 僕は《D-HERO デビルガイ》と《D-HERO ダイヤモンドガイ》を選択!」
「D-HERO……だって?」

 十代の問いは、この場にいた全員が共通して抱いた問いだっただろう。なぜなら、HEROと名のつくカードはこの世界においてはE・HEROただ一つ。D-HEROやV・HERO、M・HEROといった様々なHEROが存在していた俺の世界とは違うのだから。
 そして、そんな問いに対して、エドは自信を込めて言い放った。

「そうだ! HERO、Dシリーズ! Dデステニーによって導かれる、最強のHEROだ!」

 D-HEROデステニー・ヒーロー、俺の世界では別名「贅沢なHERO」と呼ばれるほどに必須カードが軒並みレアリティが高くて値段も高い、というなんともデッキを作りづらいカード群だった覚えがある。
 また、ディスクガイというバブルマン以上に強欲なドローソースもあったので、回れば非常に強力なデッキでもあった。
 ディスクガイはその汎用性(墓地から蘇生した時2枚ドロー。とんでもない壊れ)から、速攻で禁止カードになったためその猛威はなりを潜めているが、こちらの世界では当然ディスクガイは禁止ではないし、OCG化されてないカードも多いはず。その脅威は元の世界以上と考えていいだろう。
 その俺の考えを証明するかのように、その後の展開は一方的だった。時折り十代もエドにダメージを与えるが、しかし場の優位は誰がどう見てもエドにあったのだ。
 デビルガイでシャイニング・フレア・ウィングマンを2ターン後のスタンバイフェイズまで除外。ダイヤモンドガイの効果で、デッキトップの魔法カードを次のターンに発動。たとえD-HEROがやられても、ダイハードガイの効果で蘇生……。
 その布陣に一切のミスはなく、まさにエドのプレイングの優秀さを強調させるHEROたちであった。
 十代もバブルマンからのドローによって起点を作り、クレイマンを召喚し、と喰らいついていくが……それでも、やはり不利は否めない。
 エドが発動したフィールド魔法《幽獄の時計塔》も既に5ターン目。十代はネクロイド・シャーマンによってエドにトドメを刺そうとするが、それは幽獄の時計塔の戦闘ダメージを受けない効果により思惑を外されてしまう。
 仕方なく、十代はカードを2枚伏せてターンを終了した。

「残念だったな、十代。僕のターン、ドロー!」

 そしてスタンバイフェイズとなり、デビルガイで除外されていたシャイニング・フレア・ウィングマンが十代の場に戻る。
 カードを引いたエドは、自信の優位を確信した笑みと共に行動を起こしていった。

「《強欲な壺》を発動し、2枚ドロー! そしてダイヤモンドガイによってデッキから墓地セメタリーに送られた《魔法石の採掘》の効果エフェクト発動! 僕は墓地から《ミスフォーチュン》を手札に加え、そのまま発動! 相手の場のモンスターの攻撃力の半分のダメージを相手に与える! 十代を攻撃しろ、シャイニング・フレア・ウィングマン!」

 先程も十代が喰らったコンボだ。
 その時大幅にライフを削られた十代の現在のライフは僅か150しかない。

十代 LP:150

「まずい! このままだと十代の負けだ!」

 三沢が思わず腰を浮かせて叫ぶ。
 俺たちも焦燥と共に場を見守るが、しかし十代はにやりと笑っていた。

「それは読めてたぜ、エド! リバースカードオープン! 《融合解除》と《異次元からの埋葬》! 異次元からの埋葬で除外されたモンスターを墓地に戻す。そして、シャイニング・フレア・ウィングマンを融合解除! これにより、対象を失ったミスフォーチュンは不発だ!」
「ふん……カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 そして、同時に十代の場にはスパークマンとフレイム・ウィングマンが召喚された。本来フレイム・ウィングマンは融合召喚でしか特殊召喚されないが、アニメ効果ならではか。
 ペガサスさんはルール改訂に並行して他のカードのエラッタも随時行うと言っていたから、やがてこの使い方もできなくなるんだろうが、今は問題ない。
 これで十代の場には現在、クレイマン、スパークマン、フレイム・ウィングマン、ネクロイド・シャーマンの4体がいることになる。

「俺のターン、ドロー!」

 十代の手札はこれ1枚。そして強欲な壺は既に使用している。この状況で一体、何を引いたのか……。

「俺は《ホープ・オブ・フィフス》を発動! 墓地のHERO5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 そして手札を見た十代は、よしと呟いた。

「速攻魔法、《サイクロン》を発動! これにより、フィールド魔法《幽獄の時計塔》を破壊する!」

 十代が勢い込んでそう言った瞬間、エドは大きく口元を歪めて笑った。

「それを待っていたよ、十代! この瞬間、幽獄の時計塔の効果発動! 5ターン経過したこのカードが破壊された時、デッキからこの牢獄に囚われていたHEROを召喚する。――カモン、《D-HERO ドレッドガイ》!」

《D-HERO ドレッドガイ》 ATK/? DEF/?

 身の丈4メートルはある巨漢。その顔は鉄格子のような仮面に隠され窺えないが、その鋼のような筋肉、ぼさぼさの長髪、そして首や手足につけられた拘束用の枷が、その雰囲気を非常に威圧的なものにしている。
 ドレッドガイは、エドの後ろで唸りながら十代のほうを見ていた。

「この効果で特殊召喚されたドレッドガイの効果発動! 自分の場のD-HERO以外のモンスターを破壊し、墓地のD-HEROを2体まで特殊召喚する! 現れろ、デビルガイ! ダイハードガイ!」

 せっかく倒したというのに、再び復活するエドのD-HEROたち。それらに囲まれたエドは、勝利を確信してか笑みを絶やさない。

「そしてドレッドガイの攻撃力は自分の場のD-HEROの攻撃力の合計となる! デビルガイの600、ダイハードガイの800、ダイヤモンドガイの1400で、ドレッドガイの攻撃力は2800だ!」

《D-HERO ドレッドガイ》 ATK/?→2800 DEF/?→2800

 ここにきて大型のモンスターの登場か。だが、十代に全く手がないわけじゃないはず。頑張れ、十代。俺は心の中で声援を送る。

「更に、ドレッドガイのもう一つの効果。それは、このカードが特殊召喚されたターン、僕の場のD-HEROは破壊されなくなる」

 それを聞き、俺たちの間に驚きの声が上がる。
 さすが5ターンも費やして召喚されたモンスター。それなりの効果は備えているってことだ。何より、戦闘に限らず全ての破壊に耐性を持つというのが、意外と厄介だ。
 ここから逆転なんて可能なのか。そう思って十代を見ると、十代はいつものように楽しそうに笑っていた。
 だが、そんな十代を見て、それまで余裕の笑みを浮かべていたエドの表情が一変する。

「何を……何をヘラヘラと笑っている、遊城十代! そんな能天気にHEROを使う貴様を、僕はHERO使いとは認めない! 僕のような戦う理由すら持たずしてHEROを使うなど、おこがましいにも程がある!」
「な、なんだよそれ。どういうことだよ」

 そのあまりの剣幕、そして一方的に責められた十代は、気圧されながらもその理由をエドに問う。
 それに対して、エドは語り始めた。エドがHEROを使って戦う理由を。

 ――エドの父親は、I2社に勤める優れたカードデザイナーだった。幼いエドは、そんな父を誇りに思っていたという。
 だが、そんなエドの父親のカードを狙って何者かが襲撃。それによりエドの父は命を落とし、エドにD-HEROだけを遺した。
 その後、エドは正義を信じ、犯人が捕まるのを待った。だが、いつまで経っても捕まるどころか特定すらされない。
 ゆえに、エドは捕まえられないなら自分が捕まえ、父の仇を取ってみせると誓い、プロの道へと進んだらしい。

「奴はこの世界に1枚しかないカードを持っている。プロになれば、普通なら手に入らない情報も手に入る、特にカード関連なら……。だからこそ、僕は負けられない! ただ憧れだけで、ヘラヘラとHEROを使う十代! 特に貴様のような奴にはな!」

 憎しみすら感じさせる目で十代を睨み、エドは十代のスタイルをすべて否定する。
 その言い分は、なるほどエドなりの理由があるからこそのものなのかもしれない。そして、その過去は凄惨であるし、俺たち部外者から見てもそんな使命を抱いてデュエルに臨むエドは凄いとも思う。
 だが、それがどうしたのだ。だからといって、他人のプレイに口を出すのは違うと思う。それは結局、ただの八つ当たりにすぎないだろうからだ。
 俺なんかはそんなことを言われたらそう考えてしまうのだが……十代の場合はたぶん違うんだろうなぁ。あいつ、底抜けにいい奴だし。
 そう思って俺が十代を見ると、そこにはエドの過去を聞いて神妙な顔をしている十代の姿があった。

「そんなことがあったのか……。けど、だからって俺が間違っているとは思わない! 俺についてきてくれるHEROが、こうして居るんだ! だから、こいつらのためにも、そいつを認めるわけにはいかないぜ!」
「黙れ! カードを言い訳に逃げるなど、愚かしいだけだぞ!」
「言い訳なんかじゃない! 俺達には、確かに切っても切れない絆が存在しているんだ! 俺はカードを1枚伏せ、ターンエンド!」
「僕のターン、ドロー! なら、そんな絆など粉々に打ち砕く! 《ライトニング・ボルテックス》を発動! 手札1枚をコストに、お前の場のモンスター全てを破壊する!」
「な、なんだって!? ぐぁああッ!」

 エドが提示したカードから放たれた雷撃が、十代のフィールドを駆け抜ける。その雷光は十代の場に存在していた4体のHEROを全て破壊し、十代の場はこれでがら空きとなってしまった。

「これで終わりだ! いけ、ドレッドガイ! 十代に直接攻撃ダイレクトアタック! 《プレデター・オブ・ドレッドノート》!」
「させるか! 罠発動、《攻撃の無力化》! その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる!」
「ちっ、無駄な足掻きを……! ターンエンドだ!」

 めまぐるしく動く状況。
 だが、どうにか十代は耐えたか。しかし、ここでどうにかしなければ負けは必至だ。どうする、十代。

「俺のターン、ドロー! ドレッドガイが特殊召喚されたターンは既に終わった! これでお前の場のモンスターを破壊することが可能になったぜ!」
「それがどうした! フィールドにモンスターも存在していないお前に、ドレッドガイを倒すことが出来ると思っているのか!」

 そんな挑発とも取れる言葉に、しかし十代は真っ向から向かい合った。

「さあな。でも、やってみなきゃわからないだろ! 俺は手札から《E・HERO バブルマン》を召喚! 場に何もないため、デッキから2枚ドロー! 更に《融合回収フュージョン・リカバリー》を発動! 墓地から《融合》と《E・HERO スパークマン》を手札に加える!」

 これで十代の手札は3枚。そのうち2枚が融合とスパークマンだとすれば、あとの1枚は一体何を引いたのか。
 固唾を呑んで見守る。そんな視線の中、十代は一気に2枚の手札を掴み取った。

「俺は《融合》を発動! 場のバブルマンと手札のスパークマンを融合する!」

 その言葉を聞き、エドが驚愕に目を見開く。

「馬鹿な!? バブルマンとスパークマンで召喚される融合HEROなんて存在しないはず! どういうことだ!?」

 それはエドの言う通りだ。だが現在この世界においてただ一人、十代にだけはその常識が当てはまらない。
 属性と、「HERO」と名のつくモンスターであれば素材を指定しない融合E・HEROを、十代は1枚だけ所有しているのだから。

「現れろ、極寒のHERO! 《E・HERO アブソルートZero》!」

 十代がカードを置き、それによって現れる全身を鋭い氷によって覆われた細身のHERO。身体の表面が光を反射し、氷のHEROでありながら光に溢れたHEROである。

《E・HERO アブソルートZero》 ATK/2500 DEF/2000

 そして、その姿を見てエドが一層驚きを露わにする。その姿に、HERO使いである自分が見覚えがないからであろう。

「ぼ、僕の知らないE・HEROだと……!? こんなことが!?」
「へへ、こいつは俺の大事な友達から譲り受けたカードだぜ!」

 エドの表情に、してやったりとばかりに十代が笑いながらそう告げる。
 そして、その言葉を聞いたエドは、一瞬間を置くものの何かに思い当たったようだった。

「大事な友達……? そうか! 斎王が気にしていたあの男……!」

 その間に、十代は続けて行動を起こしていく。

「更に、俺は手札から2枚目の《融合解除》を発動! アブソルートZeroをエクストラデッキに戻し、バブルマンとスパークマンを特殊召喚する!」

《E・HERO バブルマン》 ATK/800 DEF/1200
《E・HEROスパークマン》 ATK/1600 DEF/1400

「なに!? 召喚したばかりのモンスターを何故……!」
「こういうことさ! アブソルートZeroの効果発動! このカードがフィールドを離れた時、相手フィールドのモンスターを全て破壊する!」
「な、なんだとッ!?」

 まさかのサンダー・ボルトに、狼狽するエド。それに対して、十代は場に漂う冷気を前に声を上げた。

「これが氷のHEROが持つ最強の能力だ! 《絶対零度-Absolute Zero-》!」

 アブソルートZeroがフィールドに残した冷気により、エドの場のモンスターが全て氷像と化す。そしてそれはやがて甲高い音と共に罅割れ、崩れ落ちていった。

「よっしゃあ! これでお前の場はがら空きだぜ!」
「ぐッ……! まさか、これほどまでに強力な効果を持つHEROがいたとは……! だが――だが僕は、負けるわけにはいかないんだッ!」

 劣勢になりながらも、エドが叫ぶ。
 十代の勝利を確信していた俺達だったが、しかしそれは次にエドが起こした行動によって現実とはならなくなるのだった。

「罠発動! 《デステニー・ミラージュ》!」

 エドの場に起き上がった罠カード。その効果が発動され、何も存在していなかったエドの場に変動がみられた。

「このカードの効果により、D-HEROが相手のカードの効果で破壊されたこの時、その墓地に送られたD-HEROを全てフィールドに呼び戻す! 運命に従い、我が呼びかけに応えよ! D-HERO!」

《D-HERO ダイヤモンドガイ》 ATK/1400 DEF/1600
《D-HERO デビルガイ》 ATK/600 DEF/800
《D-HERO ダイハードガイ》 ATK/800 DEF/800
《D-HERO ドレッドガイ》 ATK/?→2800 DEF/?→2800

 再びエドの場に揃うHEROたちを見て、思う。ここでそんなカードかよ、と。
 まったく、呆れたドローと運を持つ男だ。あの十代に、まさかあの状況から勝ってみせるとは。
 ここまでくると、もはや感心してしまう。たとえ復讐を胸に誓おうとも、こうして最後まで自分のモンスターを信じてデュエルする姿は、間違いなくデュエリストだ。
 俺は、素直にエドのことをデュエリストとして凄いと思った。

「あーあ、俺の負けかぁ。でもまぁ、ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ、エド!」
「お前は……どこまでも……!」
「それが、俺のポリシーだ! 俺は最後まで自分のHEROたちを信じて、全力を尽くしたんだ! 悔いはないぜ! それはお前も一緒なんじゃないのか、エド!」

 十代が、怒りに顔を歪ませるエドを前に、真摯な声で問いかける。
 それを受けて、エドははっとしたように押し黙った。

「僕は……いや……僕も……そうだ。――僕も、自分の、父さんの遺してくれたD-HEROたちを心から信頼している! だから、HERO使いとして絶対にお前に勝つ! 十代!」

 キッと、先程までの怒りに満ちたものではない瞳で、エドは十代を見据える。
 それを受け止める十代は、にっと笑みを浮かべた。

「ああ! 来い、エド!」
「ドレッドガイ! スパークマンに攻撃だ! 《プレデター・オブ・ドレッドノート》!」

 ドレッドガイの巨体から振り下ろされる拳が、スパークマンに直撃する。
 それをかわす術も、対抗する術も持たないスパークマンはそのまま破壊され、そしてそれはそのまま十代のライフポイントを容赦なく削り取っていった。

「ぐぁぁああッ!」

十代 LP:150→0

 この瞬間、十代の敗北が決定した。
 残念だとは思うものの、しかしそこに暗い気持ちは存在しない。何故なら、この戦いは本当にいいデュエルだったと自信を持って言えるからだ。これなら、負けた十代も満足いっていることだろう。
 俺たちは立ち上がり、二人の姿を視界に収める。そしてステージに降りて十代と合流しようと考えるが……どうも、ステージ上の様子がおかしい。
 ライフがゼロになり、同時にふらっと十代が後ろに倒れたのだが……十代がその後まったく身じろぎもしないのだ。
 よくオーバーなアクションをする奴でもあるから、そういう類かと思ったが……。
 対戦したエドもおかしいと気づいたのだろう。しばらく十代と相対したままを維持していただけに、倒れてからの異常にすぐに気付いたらしい。
 エドはすぐさま十代に駆け寄り、脈や瞳孔をチェックしている。これは、本格的に何かマズいことが十代の身に起こったのかもしれない。
 俺たちは一瞬顔を見合わせると、それぞれの焦燥を表すかのように、慌ただしく階下へと降りて行った。




 その後、十代は保健室へと運ばれ、鮎川先生の診察を受けることとなった。
 だが、肝心の十代が気を失ってまだ寝ているため、簡単な検査だけをして異常がないことを確かめただけである。あとは、十代が目を覚ましてからもう一度検査をするらしい。
 一応エドも保健室まで付き合ってくれたのだが、十代にとりあえずの異常がないことを知ると、そのまま保健室から出ていった。尤も保健室から出る間際、メモ用紙に電話番号を書いて俺に渡してきたのだが。
 十代が起きて、何か異常があったときは連絡しろ、だそうだ。あれで、エドも十代のことを少しは認めたのかもしれない。
 そんなことをメモを見ながら思い、俺は素直じゃない後輩に苦笑を浮かべるのだった。




 *




 そしてその翌日。十代は目を覚ました。
 ……カードの絵も、テキストも、全てが真っ白にしか見えない。そんな後遺症を残して。



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