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明日は良い日 ~Hope For Tomorrow!~
キュアラブリー「世界に広がるビッグな愛! 現れろ《No.11 ビッグ・アイ》!」
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遊戯王GXへ、現実より:第40話 修学
 船に乗り、波に揺られ、孤島デュエルアカデミアから離れること数時間。
 ついに、俺たちは此度の目的地へとたどり着いた。

 船を降り、波が寄せる音響く港の大地を踏みしめる。地に足を着けているという安心感に浸っていると、俺の隣に立った十代が、がばっと両腕を突き上げて大口を開けた。

「――ついに来たぜ! 童実野町!」

 そう叫んだその顔は喜びと期待に満ちていて、十代がこの時をどれだけ楽しみにしていたのかが窺える。
 それというのもやはり、この町がデュエリストにとって憧れである人物たちの出身地であり、そしてバトルシティという初代デュエルキングを決める一大大会が行われた場所でもあるからだろう。
 その初代決闘王デュエルキングである武藤遊戯さんに始まり、その宿命のライバルにしてKC社社長であり世界唯一の青眼使い海馬瀬人さん。遊戯さんの親友にして真紅眼レッドアイズと戦士族を操り、また強運の持ち主でもある城之内克也さん。
 そしてここ最近ではペガサスさんがこの町に家を買ったということでも知られ、まさにデュエリストならば知らぬ者はいない人物が、それぞれこの町に関係しているのだ。
 だからこそのデュエリストの聖地。この町が特別であるということは、未来においてこの町が世界の中心となっていったことからも想像に難くないことである。
 ましてそのそうそうたる面子の中で、遊戯さんは十代にとって憧れの人物だ。その遊戯さんの出身地にして栄光を掴んだ地。その場所にいることに、十代が何も感じないはずがないのである。
 だが、しかし。
 俺は十代の肩にポンと手を置いた。

「ん、どうした遠也」
「気持ちはわかるけどさ、十代。少しはあっちも心配してやろう」

 言って俺が視線を船のほうに向けると、十代もそれに続く。
 そして、俺たちの視線にさらされながら甲板から降りてくるのは、剣山と翔に肩を貸してもらって歩く三沢その人である。

「大丈夫かドン、先輩」
「ずっと気持ち悪そうだったもんね、三沢くん」
「……す、すまん翔、剣山。や、やっと地上か……」

 船から降りると、三沢は二人に礼を言って離れる。若干よろけはしたが、大地の上ということで気持ちも落ち着いてきたのだろう。顔色は船の中にいた時よりは良くなっているようだ。

「っと、そうだった。大丈夫か、三沢」

 十代が三沢の青い顔を見て声をかける。すっかり三沢のことは忘れて楽しもうとしてたしな。ちょっとバツが悪そうである。

「ああ。すまんな十代……心配をかけて」
「無理はすんなよ。別に明日だってあるんだからさ!」
「……そうだな。けど、せっかく来たんだ。出来るだけ楽しむさ」
「おう!」

 笑い合う十代と三沢。その姿を収めていた視線を俺はずらし、三沢の後ろに続くように出てきた二人を見る。
 そこには、マナが船から降りてくる姿と、そのマナに手を引かれて出てくる一人の女子の姿があった。

「そっちは酔わなかったか? レイン」
「……大丈夫」
「顔色一つ変えないんだもん。レインちゃんって乗り物に強いんだねー」

 表情を常と変えずに俺の心配にそう返すレイン。マナいわく船の中でもいつも通りだったようだから、だいぶ強いのだろう。
 レッド生が乗ってきたこの船はかなり旧式で年数もいってるっぽいだけに、正直そこまで乗り心地はよくなかったのになぁ。
 さっきまで船の中で感じていた振動を思い起こしていると、俺の隣までマナが来て、その横にレインも立つ。
 オベリスクブルー女子の中等部制服に身を包んだレインは、その銀色の髪を束ねたツインテールを潮風に揺らしながら、俺の視線に不思議そうに小首をかしげた。

「……しかし、なんでレインが来てるんだ?」

 剣山は高等部だし、単位と体裁さえ気にしなければ強引に乗り込んでついてくることもできなくはない。ちなみに吹雪さんも来ている。まぁ、吹雪さんは行方不明だった以上、当然修学旅行未参加ということで今回の修学旅行について来ているのかもしれないが。
 そういうわけで、あの二人が来るのはまぁわかるんだが……。
 レインは中等部生であり、中等部ということは義務教育だ。基本的に授業は必須科目で埋められており、よほどのことでない限り特別措置は受けられない。
 となると、レインにはその余程なことがあるということになるが……高等部の修学旅行に参加する余程のことって、何だ?
 船の中でも疑問だったが、三沢がそれどころではなかったのでスルーしていた。しかし改めて不思議に思って聞いてみると、レインはいつも通りの表情で小さく口を動かした。

「……教えられない……それは、禁則事項だから……」
「そ、そうか」

 レイン、お前が何を言っているのかわからないよ。
 だがしかし、言いたくないことは何となくわかったので、これ以上は訊かないことにした。
 と、レインから急にメロディが流れてくる。これは、電話か? 俺とマナが黙っていると、レインはポケットからPDAを取り出して画面にタッチした。

「……もしもし」
『ああ、やっと繋がった! 先生に聞いたよ! なんで恵ちゃんが遠也さんたちと修学旅行に行ってるの!? ボクも行きたかったのに!』

 電話口から聞こえてくるのはレイの声だ。どうも船に乗っている間レインは電源を切っていたらしく、その間もレイはコールし続けていたらしい。
 そしてようやく繋がった今、その溜め込んでいた疑問がレインにぶつけられているようだった。
 レイの言葉を受けて、レインの眉尻が下がる。困っているような、悲しんでいるような、そんな顔だった。やっぱり、レイを相手にすると表情が豊かになるなこの子は。それだけ大事な友達ということなのだろう。

「ごめん……レイ……」
『うー……恵ちゃんにも事情があるんでしょ? でも、すっごく羨ましいんだから、簡単には許さないからね!』
「……どうすれば、いいの?」
『まずそっちでの遠也さんの様子とかのレポートお願いね! あ、あと帰ってきたらボクに付き合ってよ。恵ちゃん強いから、デュエルしてると楽しいしね!』

 それらの要求を聴き、レインもレイが本気で怒っているわけではないと悟ったのだろう。表情に僅かな微笑みを浮かべ、固くなっていた身体からも力が抜ける。

「……うん、わかった」
『うん、お願いね恵ちゃん』

 レイの姿こそ見えないが、二人で笑い合う美しい光景だ。
 だが、俺はあえてそこに踏み込んだ。いや、踏み込まざるを得なかった。

「おい、レイ。俺のレポートってなんだそれ」
『うっきゃあ!? とと、遠也さん!? 聞いてたの!?』
「聞いてたよ」
『えーっと、それはその……写真とか色々――って、わぁっ先生!? もう授業ですか!?』

 いきなり声が遠くなったかと思うと、小さく「早乙女、早く席に戻りなさい!」という声が聞こえてくる。どうやら授業が始まる時間らしかった。

『えっと、じ、じゃあ恵ちゃん! よろしくね! また夜にでもお話ししようね! それじゃあ!』
「うん……じゃあね、レイ」
「あ、おい、レイ――」

 プツン。
 俺が言葉を言い切る前に、電話が切られる。そしてレインはPDAをしまうと、じっと俺の顔を見つめてきた。それに思わずたじろぐと、レインは一度仕舞ったPDAをもう一度取り出して俺に向ける。
 何をするのか。そう思っていると、レインはカメラ機能を使ってパシャリ。どういうことなの。

「……写真、頼まれたから……」
「ああ、そうすか……」

 淡々と言われ、俺は何だかどうでもよくなって肩を落とした。
 すると、マナが「レインちゃん、私も撮ってー!」とレインにアピールしてレインがそれをPDAで撮影している。マナもレイと親しいから撮っておこうということだろう。
 それを見つつ、はぁ、と溜め息をつくと、そこに十代たちが寄ってきた。

「おい、遠也! なんかホワイトの連中がみんな斎王についていっちまったから、俺たちも自由行動だってよ!」
「クロノス先生が言ってたっす」
「え?」

 見れば、確かに俺たちが乗ってきたものとは比べ物にならないほどの豪華客船の前にたむろっていた白い制服が一つも見当たらない。
 港の出口の方を見れば、そこに一塊になって歩く白服がいたので、既に勝手に行動し始めているようだ。……しかし、仮にも修学旅行という名目なのにそれでいいのだろうか?
 というわけで、俺はクロノス先生の下へ行き、尋ねる。

「いいんですか? ホワイトもそうですけど、俺たちも自由行動って」
「別にいいノーネ。ただ、一応定期的に連絡は入れなサーイ。これが先生の番号なノーネ」
「あ、はい。わかりました」

 クロノス先生の持つPDAの番号が書かれたそれを受け取ると、先生は「シニョールも楽しみなサーイ」と言って、教頭と一緒に町の方へと歩いていってしまう。
 自分が観光したかったってのもあるんじゃ、とも思ったが、気持ちはわかるしそこは触れないでおこう。
 そんなわけで十代たちの元に戻った俺は、そこにまた一人メンバーが加わっていることに気が付いた。

「エド? お前も来てたのか」
「ああ。アカデミアから自然に外に出るこの機会、斎王が無駄にするとも思えないからな」

 なるほど。エドの言うことも尤もだ。こういう時でもないと、島の外に出るのは目立つからな。何かするなら、ぴったりというわけだ。

「お、じゃあエド! お前も一緒に観光しようぜ! デュエルの聖地だ! お前だって興味あるだろ?」
「悪いが、僕はプロとしての仕事で何度も訪れている。今更目新しいものなど何もない」

 十代の誘いをそう一蹴すると、エドはさっさと港から市街地へと去って行ってしまう。
 その後ろ姿を見つめて、面白くなさそうな顔をするのは翔と剣山の二人である。

「ちぇ、せっかく兄貴が誘ったのに」
「可愛げのない奴ザウルス」

 ぶすっとした表情になる二人を、三沢が苦笑してまぁまぁと宥める。
 そんな二人に対して実際にエドに言われた十代の方は特に気にしていないようで、実にあっけらかんとした顔で俺たちに向き直った。

「んじゃ、俺たちだけで行くか! 行きたいところがあったんだよ、俺!」

 そう言って俺に目を向ける十代に、俺は肩をすくめた。

「もちろん、知ってる所なら案内するって」
「やったぜ! サンキュー、遠也! それじゃ、行こうぜ皆!」

 そういうわけで、十代を先頭に俺たちは歩き出す。
 メンバーは、十代、俺、翔、剣山、三沢、マナ、レイン。要するに、いつも通りの面子からレイが抜けてレインを加えた形となる。
 そのため、ここにレインと特別親しい友達はおらず、周りは年上ばかりだ。表情が乏しいためわかりづらいが、レインが居辛くないようにと、俺とマナは極力気を配りながら童実野町へと繰り出していくのだった。




 まず俺たちがやって来たのは、町の中心地からは少し外れた位置にある小さな店舗だ。いかにも下町のおもちゃ屋といった様相なのだが、しかしこの世界では知らぬ者がいない個人経営店としては恐らく世界一有名なおもちゃ屋である。
 店主本人監修の童実野町ガイドにも載っている、決闘王武藤遊戯の生家。そう、遊戯さんのお爺さんである武藤双六さんの構える店、おもちゃ屋『亀のゲーム屋』である。

「へー、ここがそうかぁ!」

 店の前に立ち、十代が興奮した声でその外観を見上げる。

「決闘王武藤遊戯の出発点。そう考えると、俺たちアカミデアの生徒にとって聖地というのも頷けるな」
「うんうん、三沢くんの言う通りっすね!」
「やっぱりこの町は俺たちデュエリストにとって特別な町だドン!」

 十代に続き、三沢、翔、剣山もまた目を輝かせておもちゃ屋『亀』を見つめていた。遊戯さんが持つカリスマ性は、本当にこの世界では特別なものなんだと実感する瞬間だ。
 本人はいまだに杏子さんに告白できていなかったりする、奥手な人だったりするんだけど。未だにその言葉を待っている杏子さんのことを考えると、こっちがやきもきするほどだ。
 今度、俺とマナのことを伝えて発破をかけようかと密かに画策している俺である。とはいえ、しばらく会っていないし、今もそうだとは限らないわけだけども。

「――遊戯? 帰ったのか?」

 と、店の中から背の低いお爺さんがドアベルの音と共に出てくる。
 黒地に双の字が入ったバンダナ。二年前、俺も随分とお世話になった双六お爺さんに間違いなかった。

「む……気のせいだったかの? 遊戯のような気がしたんじゃが……ほ?」

 きょろきょろと辺りを見ていた双六さんの目が、俺たちのほうに向いて固定される。
 それを見て翔と剣山が双六さん監修のガイド本を持って一歩踏み出すが、それより先に双六さんは俺たちの方に駆け寄ってきていた。
 より正確に言うならば、俺のところに。

「おおー、遠也くん! 久しぶりじゃの、元気にしとったか!?」
「お久しぶりです、双六さん。元気にやってますよ」
「マナちゃんも! 相変わらずいい胸しとるのー!」
「あはは、お爺さんも相変わらずですねー」

 俺の手を握り、俺とマナの顔を交互に見ながら双六さんは顔を綻ばせる。俺たちは旧知とあって一気に打ち解けた空気となるが、他の面々は置いてけぼりを食らったようにポカンとなっていた。
 もっとも、レインだけは表情に変化がなかったのは言うまでもない。

「……遠也くんって、あの武藤遊戯のお爺さん……武藤双六さんと知り合いなんすか?」

 翔がぽつりとつぶやくと、それを聴き拾った双六さんが俺の手を離して翔を見た。

「知り合いなんて他人行儀な! ワシと遠也くんは家族のようなもんじゃ!」

 にっこり笑って断言する双六さんに、俺は気恥ずかしく思いながらもやはり嬉しさを感じる。
 だがその隣で、レインを除く皆が驚いていたのは、これまた言うまでもなかった。


 ……その後、皆に俺がかつてこの家で遊戯さんと暮らしていたということを話して驚かれたりしつつ、俺たちは店内へと入っていった。
 おもちゃ屋というだけあってそこには多種多様な商品が並んでいるが、やはり大部分を占めているのはカードである。特に双六さんは物を大事にする人なので、カードは全て綺麗に整頓され、ショーケースの中に整然と並べられていた。
 そこにはレアカードもかなり多く揃っており、いかに店主である双六さんが敏腕であるかが窺える。この規模の店でこのカードの品揃えはスゴいの一言なのである。
 十代や翔に剣山は当然として、三沢なんかもかなり興味深そうにカードを見ている。もともと知識から入るクチなだけに、テキストを片っ端から眺めているようだ。ステータスよりまずそっちを重視するあたり、この世界では珍しい部類かもしれない。
 レインは微妙に興味なさげだったので、マナと何やらおしゃべりしている。といっても、マナが一方的にしゃべって、レインが相槌を打つ程度だが。……この子と親友になったレイって凄い。そう思った。
 そんな俺たちの姿を双六さんは楽しそうに見ていたが、突然「そういえば」と何かを思い返すように上を仰いだ。

「この前、カードの絵柄が消えてしまう不思議な現象が起こっての。あれには驚いたわい。すぐに元に戻ったんじゃがな」

 双六さんとしては、単に話のネタとして口にしただけだったのだろう。だが、ここにいるのはその事件の原因を知る当事者たちであるため、その言葉に反応を示したのはごく自然なことだった。
 特に翔と剣山が大きく反応する。

「お爺さん、それは僕の兄貴が解決したんすよ!」
「俺の兄貴だドン!」

 そしていつも通り張り合う二人。っていうか剣山、お前はその時いなかっただろ。

「正確には、十代と遠也によって解決したんです。な、十代、遠也」
「へへ。まぁ、俺たちだけの力ってわけじゃなかったけどな」
「だな」

 三沢にもそう言われるが、十代と俺は互いに顔を見合って小さく笑う。
 確かに実際に理事長に対峙したのは俺たちだったが、その前のセブンスターズでは皆がそれぞれ頑張っていたし、最後の戦いだって皆の応援があったからこそだ。
 とてもじゃないが、俺たちだけが活躍したとは言えないのである。
 そしてその話を聞いた双六さんは、ほぉ、と感心した声を出して俺と十代を見た。そして、俺を見て微笑むと、静かに口を開いたのだった。

「どうやら、良い経験をしたようじゃの。昔に比べて、どこか芯が通った印象がある。見違えるようじゃ」
「……はい。その節は、ご迷惑をおかけしました」
「なに、気にすることはないぞい。お前さんもワシにとっちゃ、新しくできた孫みたいなもんじゃからの」

 そう言ってカラカラと笑う双六さんに、俺は何も言えなくなる。
 当時……この世界に来た直後の俺を知る双六さんは、俺が無気力に過ごした日々をよく知っている。だからこそ、今の俺との違いもよくわかるのだろう。
 しかし、孫のように思ってくれていたなんて。……迷惑をかけていた自覚があるからこそ意外であり、そしてそれ以上に嬉しくもあった。
 そんな俺たちの会話は、事情を知らない人間には理解できないものだ。不思議そうに聞いている皆に気付いた双六さんは、今度は十代の方に顔を向けた。

「しかし、それなら遠也くんと十代くんはこの店にとっても恩人となるの。よし、それならワシがご褒美をあげよう」

 その言葉に、すわレアカードをくれるのかとショーケースを見ていた翔が色めき立つ。
 だが、双六さんの口から出てきたのは、それとはまったく別の提案だった。

「ワシ自ら、遊戯ゆかりの地を案内してやろう!」

 双六さんはニッコリ笑ってそう言ったのである。
 もちろん俺たちはその提案を二つ返事で受け入れたのだった。




 というわけで、双六さんによる楽しい童実野町観光はじまるよー。
 と、思っていたんだが……。

「――なぜ俺たちはここにいるのか」
「海馬くんに呼び出されたからじゃない?」
「……KC社前」

 数十分後。俺、マナ、レインの三人は、皆とは別行動となってレインが言うようにKC社本社ビルの前に立っていた。
 何故そうなったかというと、双六さんによる案内で童実野町を回ろうと店を一歩出たその瞬間、俺にかかってきた一本の電話が発端だったのだ。
 PDAを取り出して画面を見てみれば、そこには『海馬瀬人』の文字。思わず固まってしまったのは仕方あるまい。
 そんな俺を訝しんで、「誰からっすか?」と横から覗きこんだ翔が「か、海馬瀬人ぉぉおおー!?」と叫んでしまったのも仕方がないことだったに違いない。
 そんな翔の叫びによって一気に全員の視線が俺に注がれる。そんな中、俺はPDAの通話ボタンを押し、ゆっくりとそれを耳に近づけたのだった。

「も、もしもし?」
『ふぅん。久しぶりだな、遠也』

 電話越しでも伝わってくる、自信に満ちた断定口調。紛うことなき海馬さんの声に、俺は修学旅行のさなかに電話してこんでも、と思わずにはいられなかった。
 だがしかし、大恩ある海馬さんが相手である。そんな、友人たちとの一時を邪魔しやがってという気持ちは微塵も出さず、俺はその電話に向かい合った。

「どうしたんですか、一体」
『貴様は今、デュエルアカデミアの修学旅行で童実野町に来ているはずだな?』
「ええ、まあ」
『では、すぐに本社に来い』
「はぁ……――はぁ!?」
『ふん、待っているぞ』
「あ、ちょ、か、海馬さん!? ……早ぇ、もう切りやがった!」

 ツーツーとしか言わなくなったPDAを握りしめて、俺はあまりに一方的過ぎる会話……というか単なる通達、でもない、命令に、思わず大恩ある人に暴言を吐いてしまった。っていうか、新学期はじめとまんま一緒である。
 そんな中はっとした俺は、いかんいかんと気持ちを落ち着かせるが……、しかしやっぱり納得いかん。なんといっても人生に一度しかない高校の修学旅行だ。いくら海馬さんでもせめて修学旅行中ぐらいは遠慮してほしかった……!
 あの人の性格的にそんな配慮はありえないけども! そんな風に結局自分の中で結論付けつつ、俺は溜め息と共にPDAをしまう。それを見て、今の電話を見守っていた面々の中から十代が代表して口を開いた。

「今のって、マジにあの遊戯さんの永遠のライバル、海馬瀬人か!? すげーな、遠也! んで、なんて電話だったんだよ?」

 海馬さんのネームバリューはやはり凄い。十代や三沢、剣山に翔も、それぞれ目を輝かせて俺を見ているのだから。
 ただ、海馬さんを知っている双六さんとマナは苦笑いだ。既に、おおよそ内容には察しがついているのだろう。レインは……うん、表情に変化なしだ。
 ともあれ、これはこの後の行動にもかかわることだし、言わないわけにもいかない。仕方なく、俺は十代の問いに答える形で口を開いた。

「……今すぐ本社に来いってさ」
「へぇ、そうなのか! ……ん、今すぐ?」
「そう。つまり、俺はお前らと一緒に行けないってことだ」
「げ、マジかよ!?」

 十代は俺の言葉を聞き、「遠也と一緒の方がぜってぇ楽しいのに」と残念がっている。その言葉だけで救われるぜ、友よ。
 マナと双六さんは、やっぱりといった表情で、まぁ無理難題であることについては何も言わない。勝手知ったる海馬さんである。
 そしてそんな二人を見て、この後俺が別行動になることは決定事項だと悟ったのだろう。三沢と翔、剣山も十代同様に残念そうな顔を見せてくれた。
 そして、その表情の通りに「一緒に回りたかった」と言ってくれたのだから、友達がいのある奴らである。
 そんなわけで、俺とマナは双六さんの観光案内から外れることが決定したのだ。マナについては、言うまでもなくついてくるつもりだったらしい。周囲もそれが当然と思っているのか、誰も何も言わなかった。剣山は少し残念そうだったが。
 そしてレインはというと、どっちと一緒に行くか聞いた時に俺たちを見て「……行く」と言ったために同行することになったのだ。
 そういうわけで、俺たちは集合場所とその時間だけ決めると、それぞれ亀のゲーム屋を出たところで別れた。
 そして、海馬さんに呼ばれた俺とそれについてくる形となるマナとレイン。この三人はこうしてKC社に来ているというわけなのだった。

「とりあえず、行くか」
「そうだね」
「……ん」

 ちなみに、レイと親しいということで俺たちには幾分気を許してくれているのか、レインは簡単な受け答えならしてくれる。これが翔とか剣山が相手だとほとんどしゃべらない。
 もっと打ち解けてくれるといいんだが。そんなことを考えつつ、本社ビルの自動ドアを潜る俺なのだった。




 受付で名前を告げると、すぐに社員の方……というか、面識もある磯野さんが迎えに来てくれた。そしてそのままエレベーターに乗って社長室に向かうことしばし。
 たどり着いたその部屋を前に、磯野さんが軽くノックをする。それに対して「入れ」という声がかかったことで、磯野さんは失礼しますと声をかけてから扉を開き、俺たちも中に招き入れた。
 そこにはこちらに背を向けて壁一面のガラス窓から町を見下ろす白コートの男が一人。
 海馬コーポレーション社長、海馬瀬人その人である。
 その海馬さんは、くるりと振り返ると俺たちに目を向けた。その目がレインで訝しげに止まったが、視線はすぐに俺へと真っ直ぐに向けられる。

「遅かったな、遠也」
「……これでも、修学旅行の合間を縫ってきたんですけど」

 友人たちとの青春の一ページを潰されたのだ。これぐらいの嫌味は許されるだろうと、俺はじとりとした目線で海馬さんを見る。
 しかし、そんな俺の目力ごときで怯む海馬さんではない。ふん、と鼻を鳴らされて終わりだった。

「だが、貴様らはともかく後ろのソイツは何故ここにいる。俺は招いていないぞ」
「あー……いや、レインは俺達と一緒に行きたいって言ったので、その……」

 俺がしどろもどろに言い訳をし始めると、海馬さんはすぐに表情を引き締めた。

「……なるほどな。磯野」
「はっ」
「その二人を表に出させていろ」

 控えていた磯野さんにそう指示を出すと、驚いている俺たちをよそに磯野さんは海馬さんの指示通りにマナに外に出るように促してくる。
 困ったようにこっちを見てきたので、俺は首肯を返した。いつもはマナを帰せなんてことは言わないのだが、わざわざ言う以上何かあるのだろう。そう考えたからだ。
 そして俺の頷きを見てとったマナは、レインの手を引いて磯野さんと一緒に社長室を出て行った。
 ……これで、今この部屋には俺たち二人しかいないということになる。

「それで、どうしたんですか海馬さん。わざわざマナまで外に出すなんて」
「ふん、あの小娘まで連れてきた貴様が悪い」

 レインのことか? だとすれば、それは一体どういう意味の言葉なんだろう。
 俺が不思議に思っていると、海馬さんは徐に俺に背を向けると、再びガラスの下に広がる童実野町へと目を移した。
 そしてそのまま、後ろにいる俺に言葉をかけてくる。

「レイン恵……奴には気を付けていろ。隙を見せるなよ」
「……どういうことです?」

 いきなり妹分の親友を、いや、俺たちにとってもすでに友達といえるレインのことを悪し様に言われ、思わずカチンとくる。
 その言い方ではまるで、レインが悪い奴みたいじゃないか。確かに表情が乏しく、話すのだって苦手かもしれない。けど、レイには本当によく感情を見せるいい子だ。よく知らない海馬さんに言われる筋合いではない。
 そんな俺の様子を感じたのだろう。海馬さんは、厳しい表情のまま無言の時間を作る。その威圧感に、俺はぐっと反論を飲み込んだ。

「奴が何故、この修学旅行に参加できているのか、わかるか?」
「それは……、……わからないですけど……」

 レインは教えてくれなかったし、電話で聞こえてきたレイの話によると、レインがこちらに来たのは急なことだったようだ。レイでさえ話を聞いていなかったというのだから。
 それに、そもそも中学生であるレインがどうして高等部の修学旅行に参加しているのか。疑問ではあったが特に問題視していなかったそれに、何か理由があるというのだろうか。
 押し黙る俺に、海馬さんはただ淡々と語る。

「――イリアステル。この社会の裏で暗躍する、宗教もどきのイカれた秘密結社の名前だ。この俺でさえ組織の全容は判らんが、ただ確かに世界全体に大きな影響力を持っている。忌々しいことにな」
「……ッ!?」

 瞬間、俺は咄嗟に声を洩らさなかった自分を褒め讃えた。
 それは、普通ならば一般には知られていない名前なのだろう。説明するかのような海馬さんの台詞がそれを裏付けている。
 だが、俺はその組織を知っている。この時代よりもずっと先。そこで未来を変えるべく活動していた秘密組織。……そう、5D’sの時代に本格的に登場する組織の名であり、その時代を語るうえで外せない鍵となる存在。
 それこそが、イリアステルという組織なのである。
 確かに、イリアステルは古来から活動し、社会が正しい方向へと向かうよう導いていたという話だから、この時代にも存在しているのは納得できる。
 ……だけど、まさか海馬さんの口から、今ここで聞くことになるなんて。
 驚きで内心が満ちている俺だったが、しかし海馬さんは構わず更に言葉を続けていく。

「レイン恵の修学旅行随行、たかが中学の小娘一人を指定した特別措置。普段ならどうとも思わんが、どうにも違和感を覚えた俺は調べさせた。そしてその指示を出した人物、その背後……順に辿っていくと、行き着いたのだ。そのイリアステルにな」

 再び告げられた事実に、俺は何も言えないままだ。
 あのレインが……イリアステルの一員だというのか? イリアステル……ひいては、ゾーンの。

「ふん、どうも奴らはお前に興味があるらしい。レイン恵の背後にいた者は、お前の周囲のことも調べていたようだった。無論、そいつは我が社の人間が縛り上げたがな」

 つまり、イリアステルの息がかかった人間がいて、更にその部下のような人間がいて、その人物のその先にレインがいる、ということか。
 そして出発点であるイリアステルではなく、到着点であるレインに比較的近い誰かが俺のことを調べていた、と。
 ゆえに、レイン恵にはイリアステルとの関わりがある。海馬さんはそう考えて俺を呼び出したわけか。

「イリアステル……この俺にもどうにもならん組織など、極めて腹立たしい。が、その力が本物なのも事実。各界各国の上層部全てに影響力を持つ奴らに抗する術は今のところは無い」

 イリアステルとは、それほどまでに巨大かつ強大な組織なのだ。
 海馬さんはそう締めくくると、俺に向けていた背中を翻して正面から俺を見据えてきた。

「イリアステルなどという大物が出てこなければ、何も言う気はなかったがな。せいぜい気を付けておけ。それと、たまにはモクバのところにも顔を出してやれ。この前会いたがっていたからな」
「……はい」

 話は終わりだ、と海馬さんは再び俺に背を向ける。
 これ以上海馬さんは何も言うつもりがないという意思表示だろう。そう考えた俺は、一度頭を下げて、「ありがとうございました。失礼します」と、それだけを言って部屋を辞した。
 部屋を出てすぐにマナとレインがいたが、俺はレインの顔をまともに見ることが出来なかった。怪訝に思われたかもしれないが、海馬さんから聞いた話について考えていて、余裕があまりなかったのだ。
 磯野さんに再び先導されて、俺たちはKC社のエントランスまで送り届けられる。そこからは普通に三人で外に出たが、やはり俺の心の中を占めているのはイリアステルとレインの関係のことだった。
 イリアステルとは、ゾーンという破滅した未来の世界に生きた男を頂点に活動する組織のことだ。その目的は破滅の未来を救うこと。それゆえ、歴史が滅びの道に逸れないように社会を操作して正しい道を示し続けるのがその役目である。
 そして、未来が破滅した原因は、モーメントと呼ばれる半永久機関が原因だ。このエネルギー機関は、シンクロ召喚によってその回転を速めることが出来、それによってより多くのエネルギーが生まれるという特性がある。
 シンクロ召喚の爆発的普及、またモーメントの増加とそれに頼りきった生活、そして技術の進歩によって肥大した人間の欲望。それらが急速に増していった時、モーメントに隠されたもう一つの特性が、一気に破裂したのだ。
 ”ヒトの感情を読み取る”というその特性。モーメントは肥大化した欲望を読み取り、嘆き、このままでは世界が滅びると判断して、元凶である人類を滅ぼしたのだ。
 その世界に生き残った者こそZ-ONE最後の一人、ゾーンである。彼はその仲間たちと共に未来を変えるべく、過去に干渉してイリアステルという組織を作った。
 その成り立ちを知るからこそ、俺に興味を示すというのは理解できる。モーメントが存在しない今、シンクロ召喚はただのデュエルモンスターズにおけるいち召喚法にすぎない。だが、未来のことを考えると、やはり無視はできないということなのだろう。
 イリアステルがそう考えているとして、だとすればレインは俺を監視する役目を持った存在、とも考えられる。というか、イリアステルの関係者で俺の比較的近くにいる時点でその可能性が一番高いだろう。
 たとえそうでなくても、海馬さんの口から聞いた情報だ。レインにイリアステルとの関わりがあるのは間違いない。そして仮に俺の監視を担っているのだとしたら……。
 そこで、考えたくない予想が俺の頭に浮かぶ。

 ……もしかして、レイの友達になったのもそのためなんじゃないのか? と。

 レイがレインに笑顔でコミュニケーションをとっている姿が思い起こされる。その情景を脳裏に描いていたその時。
 俺の眼前に、マナのどアップが迫っていた。

「うわッ!?」
「もう、やっと気づいた」

 呆れたように覗き込んでいた顔をひっこめ、マナが腰に手を当てて嘆息する。そしてその横では、レインもまた俺の方を不思議そうに見ていた。
 相変わらず動きのない顔つきだ。だが、しかしそれでもレイと一緒にいる時には笑顔を見せることもある。俺たちにだって、今では普通に会話をしてくれるようにもなっている。
 まがりなりにも、俺たちはレインと一緒に過ごしてきた。短い時間だったかもしれない。けど、それでも確かに俺はレインのことを仲間だと思っているのだ。
 ……一度受け入れた仲間に、今更疑いなんて向けられるかよ。
 海馬さんから受けた忠告がよぎる。無論、それには感謝している。きっと、イリアステルという組織の大きさ、恐ろしさを知るからこそ、海馬さんは珍しく純粋に忠告をしてくれたのだろう。
 だが、それでも。それでも俺は、レインのことを信じていたいのである。

「――なぁ、レイン」
「……なに?」

 俺は何でもないことのように口を開き、レインに声をかける。
 そして、レインもまた常と同じく抑揚のない口調でそれに答えた。
 その声を聴きつつ、俺はたった一つのことを問う。それに対する答えで、俺はレインに対する態度を固めようと、そう決めた。

「お前、レイのことをどう思ってる?」
「………………」

 レインは、呆気にとられたように口を閉ざす。そして、それに対してマナが「いきなり何を……」と割って入ってこようとしたが、俺はそれを手で制した。

「頼むレイン、答えてくれ」

 答えが返ってこないことに我知らず焦っていたのか、俺はもう一度念を押すように声を出した。
 そして、頼むという言葉が効いたのか、レインはどこか恥ずかしそうにうっすらと頬を染めると、小さく一言だけ口にする。

「………………とも、だち……」

 たった一言。字数にしても四文字という、それだけの言葉。
 だが、その答えは俺に何よりも勝る安心感を与えてくれた。

「そうか……」

 心の隅から隅まで安心している自分に、小さく笑みをこぼす。
 レインがレイに近づいたのは、俺を監視するために必要だったからではないのか。もしその疑いが事実だったとしたら。レイの気持ちをあまりに軽く見たその行為に、怒りを抱いていたかもしれない。
 だが、レインはレイのことを友達だと言った。その言葉に、嘘はないと思う。
 もし俺が思う理由でレイに近づいたのだとしても、そうじゃなかったとしても、今レインがレイのことを友達だと思う気持ちに嘘はないはずだ。
 それだけで、俺がレインに対する態度を変える必要はなくなったと言える。
 だから俺は強張っていた表情を崩すと、レインの顔を真っ直ぐ見つめた。

「なら、俺はもう気にしないことに決めたよ。妹分の友達なんだからな」

 イリアステルのことを忘れたわけじゃない。けど、レインのことを信じようと思う。
 今俺の目の前にいるこの子は、イリアステルの関係者じゃない。レイの一番の友達。だたそれだけなんだから。

「………………」

 レインはそんな俺の言葉に、小さく首を傾げる。
 その姿がなんだか可笑しく感じられて、俺は小さく噴き出すのだった。




 さて、そんな俺の様子を不審に思ったマナに言い訳を繰り返して誤魔化しつつ、俺たちは三人での観光を開始する。まぁといっても、俺とマナにとっては地元もいいトコなので、もっぱらレインの観光にしかなっていないが。
 十代たちと合流することも考えたが、下手に遠い所にいると合流するまでに貴重な自由時間を費やしてしまうからな。集合場所と時間は決めてあるので、ひとまず適当にぶらぶらすることを選んだわけだ。
 三人でファーストフード店に入って小腹を満たし、ゲームセンターで遊び(ちなみにバイクレースゲーム。レインは超上手かった)、カードゲーム屋に入ってカードを見たり(店長に二股はいかんと諭された。ちげえよ)、とにかくそれなりに楽しめたと思う。
 大型ショッピングセンターもあったのでそこに入ると、多くの店があったので時間も上手く潰すことが出来た。
 本屋に立ち寄った時に、レインがある本をじっと見ていたり。後ろから覗けば、それは化石を特集した雑誌であり、表紙はアンモナイトの化石だった。「……似てる」って、何と似てるんですか、レインさん。
 他にはペットショップにて猫のケースにかじりついて、ひたすら無言で眺めていたりもした。レイが言っていたように、本当に猫が好きらしい。そういえば、俺が初めて見つけた時も、寝てるレインに猫が集まっていたなそう言えば。
 楽しいのか、と聞けば「……ん」と小さく返答だけがあった。それでも視線を猫から離さない姿に、俺とマナは苦笑いだった。
 そんなこんながありつつ、時間は過ぎる。
 十代たちは今頃遊戯さんゆかりの地を回っているのだろう。とはいえ、バトルシティの会場はこの町全土に及んだんだ。移動だけでもかなり時間がかかっているのは間違いないので、まだ数か所ぐらいしか行けていないんじゃないだろうか。
 まぁ、まだ日は高いしそう焦ることもないよな。そう考えて俺たちはショッピングセンターを後にし、次はどこに行こうか。そろそろ合流しようか、と考えた。

 その時である。

「なっ……!」
「えっ……!?」

 突如、俺とマナは感覚を刺激する奇妙な感触に声を上げた。
 反射的にその原因を察したのか、俺の視線は気づけば空に向かっていた。そこには、町の四方を囲むように立つ巨大なモンスターの姿がある。
 《氷帝メビウス》《雷帝ザボルグ》《炎帝テスタロス》《地帝グランマーグ》。その四体によってこの町は何かしらの干渉を受けているようだった。

「遠也、これ結界だよ。デュエルモンスターズの精霊が通れないようにするための」
「なんだって!?」

 マナもまた厳しく空を見上げ、すぐにそう結論付けて告げてくる。
 精霊を通さない結界だと? なんでそんなものを……って、答えは一つか。今この町には斎王がいる。そして、十代や俺が精霊持ちのデュエリストであることは既知であるだろう。
 つまりこれは、俺と十代、というよりは十代を主に逃がさないための結界。そう考えるのが妥当だろう。

「……どうしたの?」

 そんな俺たちに、レインは不思議そうな顔をしている。
 そうか、レインには精霊が見えていないんだ。だから、なぜ俺たちが突然慌て始めたのかわからないのだろう。
 説明したいところだが、それはひとまず後にさせてもらう。それよりも、これが十代を狙ったものだとしたら、あっちのことが心配だ。
 俺はすぐさま電話をかけようとPDAを取り出す。
 だが、

「づっ!?」
「遠也!?」

 突如飛来した何かに取り出したPDAは弾かれて地面に転がる。思わずそこを見れば、PDAに重なるようにしてカードが一枚落ちていた。
 ……なるほど、これが噂のカード手裏剣か。実物は初めて見たわ。
 内心でそんなことを我ながら呑気にも思いつつ、俺はそのカードが投げられてきた方向へと顔を向けた。
 そこには、徐々にこちらに歩み寄ってくる一人の男の姿。白い制服に身を包んだそいつは、一目で光の結社の関係者だとわかった。
 とはいえ、名前までは出てこなかったわけだが。

「誰だ、お前は!」

 そのため俺が誰何すると、歩いて来ていたその男子生徒はがくりと肩を落として、一気に走り寄ってきた。こわっ。

「お前、皆本! 俺とお前は同寮だろ! なんで覚えてないんだ!」
「いや……いくらなんでも全員は覚えてないだろ普通」

 一学年何人いると思ってるんだ。一年という時間があったのは事実だが、去年は色々と忙しかったからそこまでコミュニケーション取れてないんだよ俺は。
 そんな理由から出た言葉だったのだが、それがそいつには不服だったらしい。
 ぐぬぬ、となんともわかりやすい呻き声を漏らした後、そいつは俺の腕に触れた後いくらか距離を置いて、自らの腕に着いたデュエルディスクをかざした。
 気づけば、ソイツとの間には紐がつながっている。しかも、ご丁寧にディスクと接続されたワイヤーのようなもの。これは、俺が逃げないようにするためか?

「デュエルだ! そのワイヤーはデュエルに勝たなければ外れない! お前を遊城十代のもとには行かせるなとのご命令だからな!」
「そうか、斎王が俺の足止めのために……」

 よほど、邪魔されたくない何かをしていると見える。
 ならば、俺は一刻も早くコイツを倒して十代と合流するのみ。それに、あの日十代に負けてから、デッキをずっと調整しているのだ。ここで一つ、試運転もさせてもらおうか。

「頑張って、遠也! ほら、レインちゃんも!」
「……がんばって」
「おう!」

 背後からの応援を受けつつ、俺は目の前の男に視線を戻す。
 いくぞ、俺のカードたち!

「「デュエル!」」

皆本遠也 LP:4000
白生徒 LP:4000

「先攻は俺がもらったぞ! ドロー!」

 なんだか勢いづいてドローする。デュエルディスクの表示も向こうが先攻だから、わざわざ言わなくてもいいんだが。

「俺は《切り込み隊長》を召喚! 召喚に成功したため、手札のレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する! 来い、《切り込み隊長》!」

《切り込み隊長1》 ATK/1200 DEF/400
《切り込み隊長2》 ATK/1200 DEF/400

 切り込み隊長には、特殊召喚の誘発効果以外にもう一つの効果がある。それは、このカードが表側表示で存在する限り、他の戦士族モンスターを攻撃対象に出来ない、というものだ。
 切り込み隊長は戦士族。つまり、2体並ぶと互いの効果によってどちらにも攻撃できないという状況が生まれる。これがいわゆる、切り込みロックである。
 しかも今の状況だと切り込み隊長2体しか場にいないため、実質攻撃宣言を封じられたに等しい。さすがは一時期準制限にまで指定されていたカードだ。何があっても生還する隊長はさすがである。

「どうだ! これでお前はもう攻撃が出来ない! カードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」
「それはフラグだぞ。俺のターン!」

 こちらも急いでいる身だ。時間を稼ぐためのロックだろうが……悠長に付き合ってやる道理もない!

「俺は《ヴェルズ・マンドラゴ》を特殊召喚! このカードは、自分の場のモンスターの数が相手の場のモンスターの数より少ない場合、手札から特殊召喚できる!」

 俺の場に現れる小柄な植物族のレベル4モンスター。
 ヴェルズという闇側のモンスターだが、その見た目はどこか妖精じみていて愛くるしさすら感じられる。棘がついた大きな葉と、白い髪から覗く濃い隈に縁どられた大きな目。
 マスコットキャラクターのようなデザインのモンスターである。

《ヴェルズ・マンドラゴ》 ATK/1550 DEF/1450

 相手の場には切り込み隊長が2体。よって俺の場のモンスターよりも数が多く、問題なく特殊召喚できる。

「更にもう1枚の《ヴェルズ・マンドラゴ》を特殊召喚!」

《ヴェルズ・マンドラゴ2》 ATK/1550 DEF/1450

「そして《調律》を発動! デッキから「シンクロン」と名のつくチューナーを手札に加え、その後デッキトップのカードを墓地に送る! 《アンノウン・シンクロン》を手札に加え、召喚!」

《アンノウン・シンクロン》 ATK/0 DEF/0

 これで素材は全て揃った。ならば、やることはただ一つ!

「レベル4ヴェルズ・マンドラゴ2体に、レベル1アンノウン・シンクロンをチューニング! 集いし嵐が、全てを隠す霞となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 吹き荒べ、《ミスト・ウォーム》!」

 星と光輪と化して行われたシンクロ召喚の光。その中から這い出すように出てきた巨大な蛇のような竜。しかし目や手足がなく這いずるその様は蛇よりも更に昆虫のそれに近い印象がある。
 翼を持たないドラゴンであるともいわれるが、真相は不明だ。だが、その背中についた突起から絶えず溢れる霧状の噴煙は、実体ならこの場を一瞬で覆い尽くすほどの量であった。

《ミスト・ウォーム》 ATK/2500 DEF/1500

 俺の場に現れるサンドワームにも似た巨体。その巨体を見上げつつ、しかし相手はふふんと余裕の表情を見せた。

「いくらシンクロ召喚でデカいモンスターを呼び出そうと無駄だ! お前はそもそも攻撃できないんだからな!」

 自信ありげに言うのは、伏せカードもあるためだろうか。だとしても、俺が返す言葉は決まっている。

「それはどうかな」
「なに!?」
「――ミスト・ウォームの効果発動!」

 俺がそう宣言すると、ミスト・ウォームは一層背中の突起から霧を噴き出し、それはやがて相手のフィールドのまで及び、場のカードを覆い隠していく。

「このカードのシンクロ召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するカードを3枚まで持ち主の手札に戻す! 俺は当然、切り込み隊長2体と伏せカードを選択する!」
「な、なんだとぉぉおお!?」

 驚愕するそいつを余所に、ミスト・ウォームから溢れ出した霧は勢いを増していく。そして相手の場のカードを地面から巻き上げると、それらは手札へと戻っていくのだった。
 ちなみに確認できた伏せカードの正体は、《デストラクション・ジャマー》。手札1枚をコストにフィールド上のモンスターを破壊する効果を持つカードの発動を無効にし、破壊するカードだ。
 切り込みロックと共にモンスターの破壊を防ぐ手段まで揃えていたとは。だが、今回は俺に運があったようだ。

「ぐ、ぐ……だが、それでもまだライフは残る!」
「まだ俺はメインフェイズの終了を宣言していない! 更に手札から魔法カード《死者蘇生》を発動! 墓地の《ヴェルズ・マンドラゴ》を特殊召喚する!」

《ヴェルズ・マンドラゴ》 ATK/1550 DEf/1450

 何気に実戦での使用はかなり久しぶりとなる死者蘇生だ。やはり遊戯王を象徴するカードの1枚だけあって、本当にここぞという時に活躍してくれるカードである。
 そして俺の場にヴェルズ・マンドラゴが復活したことに、向こうは冷や汗を流していた。

「な、な、が……」
「こっちも十代たちのことが心配なんでな、許してくれ。ヴェルズ・マンドラゴでプレイヤーに攻撃!」
「くっ……!」

白生徒 LP:4000→2450

 ヴェルズ・マンドラゴの体当たりが決まり、その攻撃力分向こうのライフが減少する。
 残りは2450。ミスト・ウォームの攻撃力で確実に削り取れる値である。

「これで終わりだ! ミスト・ウォームで直接攻撃! 《ヴェイルド・ミスト》!」
「うわぁああッ!」

 勢いよく噴き出された霧が、その勢いのまま向こうにぶつかっていく。いくら実体としては薄い霧といえど、勢いが強ければそれだけで脅威だ。
 実際、その霧による暴風を受けた相手は、ソリッドビジョンでありながら迫力に押されて倒れこんでしまった。

白生徒 LP:2450→0

 これで、デュエルは俺の勝ちだ。
 初手が良かったのもあったが、何より早く十代たちのところに駆けつけたいという気持ちが俺のデッキに伝わったのだろう。応えてくれたカードたちには感謝である。
 そして勝ったことで、繋がっていたワイヤーもほどけた。倒れている彼には悪いが、このまま行かせてもらおう。落ちたままだったPDAを拾い上げ、後ろの二人に声をかける。

「マナ、レイン! 行くぞ!」
「うん!」
「……うん」

 頷きを確認して走り出す。
 ……が、再び俺の左手がワイヤーのようなもので絡み取られた。

「なに!?」

 今対戦した奴はまだ腰をついたままだ。なら、とワイヤーを辿っていけば、そこには今の相手とは別のホワイト生がワイヤーの端を握りしめて立っていた。

「おっと、まだ行かせられないな」

 そう言って笑う男を先頭に、数人の生徒がぞろぞろと出てくる。それを見て、俺は思わず歯ぎしりをした。
 斎王め……数で攻めてきたか。これなら確かに、嫌でも時間は取られてしまうだろう。
 仕方ない。俺はマナに振り返った。

「先に行っててくれ! 何かわかったらPDAに連絡をくれればいい!」

 もし何かあったとしても、マナの力があればどうにかなる場面もあるだろう。そう思ってマナを先行させることに決めた俺の提案に、マナは苦渋の決断と言わんばかりにぐっと力を込めて頷いた。

「……わかった。でも無理はダメだよ、遠也! いくよ、レインちゃん!」
「……がんばって」

 そう残して、二人は町の中心部へと走っていく。俺を足止めできるなら二人はどうでもいいのか、彼らは止めようともしなかった。
 しかし……誰も強制していないのに、レイン自身が俺に応援を送ってくれるとはな。それだけ心を許してくれているのかと思うと、存外嬉しいものだ。
 イリアステルだなんだというのは抜きにして、やっぱりレインも既に俺たちの仲間。いつものメンバーの一員なのだと改めてそのことを感じる俺なのだった。
 そして、応援された以上は応えてみせなければ男ではない。俺は気合を入れてデュエルディスクを構え、相手もまたディスクをそれぞれ構えるのだった。
 まずはこの目の前の男から。そして、残りの数人も、すぐに倒して先に進む。

「「デュエル!」」




 ――結局5連戦を行った後、俺は急いでその場を離れる。そして町の中心に向かおうとした、その矢先。
 俺のPDAに連絡が入る。そこにはこう書かれていた。

『翔と剣山がさらわれた』

 どうやら俺は間に合わず、足止めは見事に成功と、そういうことらしかった。

「くっ……」

 楽しい修学旅行は、ここまでか。
 俺は足に力を込めて走り出す。向かうのは当然十代たちのところだ。今は早く合流しなくては。
 翔と剣山の無事を祈りつつ、俺はひたすら足を動かすのだった。



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