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明日は良い日 ~Hope For Tomorrow!~
キュアラブリー「世界に広がるビッグな愛! 現れろ《No.11 ビッグ・アイ》!」
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遊戯王GXへ、現実より:第48話 露見
 レイン恵の一日は、一人の少女の声から始まる。


「――恵ちゃん、朝! 朝だよ!」

 本来一人部屋であるはずのレインの居室に響く、高い声。毎日聞いている馴染みの声に鼓膜を揺すられ、レインはベッドの中でうっすらと目を開けた。
 そしてぼんやりと曇った視界の中で、自身を覗き込んでいる少女の顔を見る。朝日に照らされてくっきりと見えるその顔は、実に見慣れたもの。レインにとって親友と言える少女――早乙女レイがそこにいた。
 そしてそのレイはというと、ようやく目を開けたレインに溜め息を吐いたところであった。

「もう、やっと起きた。ほら、早く着替えて朝ご飯食べに行こうよ」
「……ん」

 気だるげな返事を返し、レインはのっそりとした動きでベッドから這い出る。そして頭を左右に揺らしながら、左右にふらふらと揺れながら洗面台を目指すのだった。
 その後ろ姿を見送って、レイはやれやれと肩をすくめた。親友が朝に弱いのは知っているが、いくらなんでもあれはないと言いたげな呆れ顔である。
 レイはいつもこうして低血圧な親友を起こしに来ているが、そうしてあの起き抜けの姿を見るたびに残念でたまらなくなる。なにせレインは同性から見ても羨むほどの美少女なのだ。その羨むほどの美少女の朝が、あんなに胡乱な様子では百年の恋も冷めるというものである。
 レインの容姿はそれほどまでに特徴的かつ魅力的だった。腰まで伸びる銀色の髪はさらさらと流れるように揺れ、白い肌は吸い付くような触り心地。であるのに特に何のケアもしていないと聞いた時は、思わず固まったほどである。
 顔だちもアイドルなんて目ではないほどに整っているというのに、朝に弱いせいか寝起きの顔は実に気の抜けた様子であり実にもったいない。
 神は二物を与えずとは、こういうことなのかもしれないな。毎朝、レイはそんなことを思っていた。
 そして今日もまた同じことを考えていると、洗面台の方から響くゴン、という鈍い音。
 その聞き慣れた音に、レイは再度溜め息をついた。
 一分ほど後、レインが頭を押さえながら戻ってくる。

「……またぶつけた」
「気を付けてっていつも言ってるのに」

 寝惚けて頭をぶつけてきたレインに、レイはやはり呆れた調子を崩さない。最初こそ心配したものだが、何度も繰り返されれば呆れの方が勝ってくる。
 レイはレインの髪をかき分けてこぶが出来ていないかだけチェックする。しかし特に問題なかったのかすぐに離れて玄関のほうへと向かった。

「ほら、恵ちゃんも早く着替えて。朝ご飯食べる時間なくなっちゃうよ?」
「……ん、待ってて」

 顔を洗って目も覚めたのか、先程とは違ってきびきびとした動きでレインは制服に着替えていく。
 肌のケアも軽い化粧も何もしないレインにとって、着替えとは本当に服を変えるだけの作業だ。それゆえ、女子にしては非常に速いスピードでその準備を終えると、すぐにレイの元に行く。

「……お待たせ」
「……なんで軽くとかしただけの髪が、そんなにさらさらなのかなぁ。ボクは毎朝きちんと整えてるのに……」
「……?」

 走ってきた時にシルクのカーテンのように揺れた髪を見て不満を述べるレイだが、しかしレインは首を傾げるだけである。レイが何を言っているのかわからないと言ったその様子に、レイは張り合うだけ無駄だと悟ったのか気持ちを切り替えてレインの手を取った。

「それじゃ、行こうか恵ちゃん」
「……うん」

 そして二人は朝食をとるべく部屋を出る。これが、二人にとっていつも通りの朝の光景であった。




 アカデミア中等部生の教室に着くと、レイとレインはそれぞれの席に分かれて座る。レイは教室の前から六列目の真ん中付近。レインは最後列の扉寄りの席である。
 二人は今日こそ教室に入ってすぐに別れたか、先生が来るまでに時間がある時はおしゃべりすることもある。つまり今日は余裕がないためすぐに席に着いたのだった。
 ここらへんは二人が基本的に優等生であるからこその行動なのかもしれない。事実、まだ席を立って会話に花を咲かせている生徒も多くいるのだから。
 そのすぐ後に先生がやってきて、授業が始まる。
 レインは黒板の前に立って熱心に話している教師の姿を見ながら、ぼうっとノートを開いたまま何も書かずに教室の風景を眺めていた。
 対してレイは教師の声を聴きつつ、黒板の内容をしっかりノートに書き留めている。大多数の生徒は同じく視線をノートと黒板の間で行ったり来たりさせていた。
 とはいえ全員がそうというわけでもなく、中には私語をしている者や他事にかまけている者もいる。千差万別。レインはそれらの様子を半分ほど閉じた目でただじっと眺めていた。
 そして、ふと心の中で思う。この光景を今、マスターは見ているだろうか、と。
 レインは己と一部の感覚を共有しているマスターに思いを馳せた。繋がっていれば感覚としてレインにもわかるので、今現在視界を共有していないことは分かっている。それでもそう考えてしまったのは、やはりそれだけ今の光景がレインのマスターにとっては得難いものであるからだ。
 既に平和とは縁遠く、生命を感じられない機械と瓦礫だけが存在する世界。レインにとっては映像と又聞きによって得られた知識が大半となるその世界を、マスターは体験してきているのだ。
 だからこそ、この光景がその心の慰みになればいいのにとそう思う。
 いつもと変わり映えのない授業風景の中。レインは敬愛する己の主に向かい、そんな気持ちを向けるのだった。




 *




 二時限ほどを教室で過ごしたレインは、教室を出てアカデミアの島の中を散策していた。
 教室を後にする際に、一緒に行きたい、遠也さんたちに会いたいとレイが目で訴えかけてきていたが、それを振り切ってレインはこうして歩いている。
 何故授業を抜け出しているかというと、レインにとって授業内容は既に頭に入っていることであるために暇であったことが一つの理由だ。人物観察などをして暇を潰していても、毎日の中でそう大きな変化があるはずもなく二時限が終わる頃には飽きてしまうのである。
 他には出来るだけ皆本遠也の傍にいて注意を向けているように、という指示を受けているからというのが理由である。特にここ最近は、マスターも遠也のことを気にかけているようにレインには感じられた。
 それはやはり、《フォーミュラ・シンクロン》を所持していたことが大きな理由なのだろう。《スターダスト・ドラゴン》だけだったならば、未来において世界を救ったという英雄――不動遊星、その父の手に渡る前の物と判断して終わっていたはずだ。
 事実、レインが高等部でなく中等部に入ったのは、そこまで厳重に監視する必要はないと当時レインのマスターが判断したためである。
 確かにイリアステルはシンクロ召喚を危険視しているが、同時に広まることは避けられないとも思っている。それだけこの世界にデュエルモンスターズは浸透しており、また人はそれを進化させ続けているからだ。
 やがてシンクロ召喚に行き着くのは自明の理。だからこそ、シンクロ召喚の祖といえる遠也であるが、その価値はそれほどではなかった。いずれ他の人間が提唱したであろう概念である以上、誰が最初にシンクロを使おうとも大きな差異はないためである。
 だが、本来の歴史においてシンクロを最初に使ったのが皆本遠也という人間ではなかったこと。そしてスターダスト・ドラゴンの現所有者であること。これら二点から、遠也は一応監視の下に置かれることとなり、レインは距離を置いて監視できる中等部に入れられたのである。
 尤も、レイの存在によって今ではかなり近しい存在になってしまったが……それも監視しやすくなったと言えばその通りであったので、特に不都合はなかった。
 そのままなら、きっと普通に仲のいい先輩後輩として過ごし、遠也が卒業するとともにレインも監視の任を解かれてマスターの元へと帰っていたことだろう。
 だが、あるカードの存在が遠也への認識を大いに改めさせることとなった。

 ――《フォーミュラ・シンクロン》。シンクロモンスターのチューナーであり、アクセルシンクロを行うために必須となるモンスター。

 そして、アクセルシンクロとは未来において僅か三人のみが使用した特別なシンクロ召喚であり、それを生み出したのはこの時代ではまだ概念すら存在しないライディングデュエルなのである。
 そして、モーメントがなければ実際に行うことは出来ないシンクロ召喚。そう、世界を破滅に追い込んだモーメントが必要不可欠なのである。
 ゆえに、遠也の危険度は一気に跳ね上がった。レインは一度入った都合上今でも中等部に所属しているが、それでも出来るだけ遠也を傍で見ているようにと指示が来るほどである。
 アクセルシンクロを行えるかもしれない男。Dホイールもライディングデュエルもない時代でありながら、それを可能にするべきパーツは既に持っている男。
 遠也が警戒されるのは必然であったと言える。
 付け加えれば、フォーミュラ・シンクロンの存在とともに、遠也の持つデュエルディスクにはモーメントが使われているらしいことをレインたちは既に知っている。デュエルディスクの本体部分はカバーで覆われているが、うっすらと漏れる光がモーメントのそれであると遠也のデュエルシーンの映像を解析した結果わかったためだ。
 そういうわけで、現在レインの背後……とりわけ直属の上司ともいえる彼女が言うマスターは、遠也に対してかなりの危機感を抱いている。
 本来の歴史における持ち主である不動遊星でもないのにスターダスト・ドラゴンとフォーミュラ・シンクロンを持つ遠也は、実はかなり危険な立ち位置にいるのが現状なのだった。
 だからこそ、レインはこうして頻繁に出歩いて遠也の元を訪ねている。指示に従い、遠也のことを厳重に見張るために。何か動きがあれば、すぐに知ることが出来るようにレインは彼らの傍に控えているのだった。
 とはいえ、レインとて心のない人形ではない。単純に彼らの傍が心地よいため、彼らと一緒にいたいという気持ちもあった。
 視界こそ共有しているレインだが、心の中まではたとえ彼女のマスターであろうと知ることは出来ない。レインが実はかなり遠也やマナ、十代たちと過ごす時間を楽しみにしていることなど知らないまま、彼女のマスターはレインに指示を出しているのだった。
 そして、教室を出て島の中を歩きつつ、レインは遠也の姿を捜す。
 探すとはいっても、レインもあのグループと一緒にいるようになってだいぶ経つ。それに、その中でも遠也とは色々な関係も手伝って一緒にいる時間は特に長い。
 そのため、どこら辺にいるかということは大体見当がついていた。
 最悪は機械的な力を借りて居場所をサーチすればいいか、とそんなことを内心で考えつつレインが歩いていくと、思った通りというべきかレインが半分閉じたような眠たげな目を向けた先に遠也がデュエルディスクを着けて立っていた。
 ちょうど誰かとデュエルしようとしているようだ。白い制服を着た男子の姿を遠也の先に認めると、レインは邪魔にならない位置からそのデュエルを見守ることにした。

皆本遠也 LP:4000
ホワイト生徒 LP:4000

 先攻はホワイト生徒のほうからのようで、彼はデッキからカードを引いた。

「俺のターン、ドロー! 俺は速攻魔法、《終焉の焔》を発動! 俺の場に《黒焔トークン》2体を守備表示で特殊召喚する! ただしこのカードを発動したターン、俺は召喚、反転召喚、特殊召喚が出来ない。カードを2枚伏せて、ターンエンドだ!」

《黒焔トークン1》 ATK/0 DEF/0
《黒焔トークン2》 ATK/0 DEF/0

 ホワイトの生徒の前に現れる、ゆらりと風に揺れる黒い炎の塊。それを遠也は訝しげな目で見ていた。

「先攻でいきなり終焉の焔か……俺のターン!」

 カードを引いた遠也は、すぐさま手札からカードを選択してディスクに置く。既にこの後の行動を決めている、そんな素早い動きであった。

「俺は《ヴェルズ・マンドラゴ》を特殊召喚! こいつは相手の場のモンスターの数より自分の場のモンスターの数が少ない時、特殊召喚できる! 更に《ジャンク・シンクロン》を通常召喚!」

《ヴェルズ・マンドラゴ》 ATK/1550 DEF/1450
《ジャンク・シンクロン》 ATK/1300 DEF/500

 レベル4のモンスターと、レベル3のチューナーが並ぶ。1ターン目から高レベルのシンクロ召喚を行う遠也を見て、流れは遠也に向かおうとしているとレインには感じられた。

「レベル4ヴェルズ・マンドラゴにレベル3ジャンク・シンクロンをチューニング! 集いし怒りが、忘我の戦士に鬼神を宿す。光差す道となれ! シンクロ召喚! 吼えろ、《ジャンク・バーサーカー》!」

 現れる赤い鎧に身を包んだ大柄の頑強な戦士。鬼のごとき顔で相手を睨みつける姿は、見る者によっては恐怖すら抱くかもしれない。
 しかし、相対するホワイト生徒は口の端を持ち上げて笑っていた。

「それを待っていた! カウンター罠、《昇天の黒角笛ブラックホーン》を発動! そのシンクロ召喚は無効だ!」

 伏せられていたカードが起き上がると、そこから現れた黒い角笛がけたたましい音色を響かせる。それによって鬼神は身をよじって苦しみ、やがてその身を四散させてフィールドから消えてしまった。

「っ! ……そうきたか。なら、カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 多くの手札を消費するシンクロ召喚。それを無効にされるのがどれほど痛いことなのかは、同じシンクロ召喚を使う者としてレインにもよくわかる。
 どうやら一筋縄ではいかない相手のようだと、レインは認識を改めた。

「俺のターン、ドロー! 俺は黒焔トークン1体をリリースし、《虚無魔人ヴァニティー・デビル》をアドバンス召喚!」

《虚無魔人》 ATK/2400 DEF/1200

「おいおい、マジかよ……」

 赤く肩までかかる長髪に、黒い外套で体を覆った優男風のモンスターが相手の場に現れ、遠也の顔が微妙に引き攣った。
 レインも、若干眉をひそめて相手を見る。何故なら、虚無魔人には非常に厄介な効果が備わっていることをレインもまた知っているからだ。

「虚無魔人が場に存在する限り、お互いに特殊召喚は出来ない! これでお前のシンクロは封じたぞ!」
「くっ……」

 思わず呻く遠也の気持ちにレインも共感する。特殊召喚に分類されるシンクロ召喚は、当然のように行うことが出来ない。
 それゆえに、遠也やレインのようなデッキ相手には本当に刺さるのである。

「バトル! 虚無魔人で直接攻撃だ!」
「それは通せないな! 罠発動、《くず鉄のかかし》! 相手モンスター1体の攻撃を無効にし、このカードは再びセットされる!」
「ちっ……防がれたか。だが、シンクロを封じられたお前なんて怖くはない。ターンエンド」

 ホワイトの生徒は、嘲るように笑うと余裕を感じさせる声でエンド宣言をした。
 癪だが、彼の言うことにも一理あるとレインは思う。シンクロ召喚を軸にしている以上、今の状況は大幅な戦力減だ。そのうえ、封じられているのは特殊召喚全般である。
 果たして、どう遠也が対抗するのか。レインはじっとデッキに指をかけた遠也の姿を見守った。

「俺のターン! ……ふむ。魔法カード《光の援軍》を発動。デッキの上から3枚を墓地に送り、デッキから《ライトロード・ハンター ライコウ》を手札に加える」

 墓地に送られたカードを遠也が確認し、更に手札の1枚を手に取る。

「更に《闇の誘惑》を発動。デッキから2枚ドローし、手札の《ドッペル・ウォリアー》を除外する」

 2枚のカードを引いた時、一瞬その口元に浮かんだ笑みをレインは捉えていた。しかしその表情が一瞬で消え去り、平静となった遠也はカードをディスクに置いた。

「……モンスターをセットし、ターンエンドだ」
「俺のターン、ドロー! 《強欲な壺》を発動し、2枚ドロー! よし、俺は手札から《サイクロン》を発動! くず鉄のかかしを破壊する!」
「……ッ」

 サイクロンによってくず鉄のかかしのカードが吹き飛ばされる。
 正体がわからない伏せカードよりも優先した理由はレインにはわからないが、彼にとってはくず鉄のかかしの除去の方が優先するべき事柄だったということなのだろう。
 もしくは、伏せカードはくず鉄のかかしよりも厄介なカードではないだろうという勘か。その答えは、すぐに出ることになる。

「まだまだ! 更に《シールドクラッシュ》を発動! その裏側守備表示のモンスターを破壊する!」

 シールドクラッシュのカードによって放たれた衝撃が、遠也の場に伏せられたモンスターを一撃で粉砕する。破壊されたのは、さっき手札に加えたばかりのライコウだった。
 ライコウはリバースした時に相手の場のカード1枚を破壊する効果を持つ、優秀なリバース効果モンスター。しかし、裏側守備表示のまま破壊されてしまっては意味がなかった。

「ふん、そいつで虚無魔人を突破するつもりだったんだろうが、当てが外れたな! 最後に俺は《サファイア・ドラゴン》を召喚!」

《サファイア・ドラゴン》 ATK/1900 DEF/1600

 高い攻撃力を持つ、レベル4の通常モンスター。これで、相手の場には2体のモンスターが並んだ。くず鉄のかかしがない今、遠也に伏せカードがあってもほぼ確実にダメージを見込めるはずである。
 ホワイト生徒もそう思っているのだろう。にやりと笑って遠也の場を指差した。

「バトルだ! まずはサファイア・ドラゴンで攻撃!」
「く……!」

遠也 LP:4000→2100

「更に虚無魔人で攻撃だ!」
「それは通さない! 罠発動、《ガードブロック》! この戦闘ダメージを0にして俺はデッキから1枚ドローする!」
「くず鉄のかかしを破壊しておいたのは正解だったな。ガードブロックは1回だけのカード。これでお前は次のターンの攻撃を防ぐ術はない。俺はこれでターンエンド! ふふ……勝てる、勝てるぞ! あの皆本遠也に! 斎王様が与えてくださったデッキは完璧だ!」
「斎王?」

 相手の口から出てきた名前に反応し、遠也が思わず問い返す。すると、彼は誰かに言いたくてたまらなかったのか上機嫌で語りだした。

「そうだ! お前のデッキはシンクロ召喚頼みだからこそ、特殊召喚メタには弱い! 特にこの虚無魔人にはな! 俺はもともとこのカードを使っていた。そこに斎王様がいくつかのカードを与えてくださり、俺に使命を授けたのだ! そう、俺を見込んでお前を倒すという使命をな! その期待に、俺は応えてみせる。そして俺こそが斎王様の側近となるのだ!」

 そしてこみ上げる気持ちが抑えられないとばかりに、くぐもった笑いを彼は漏らす。
 しかし、それを聴いても遠也の顔に変化はない。その変わらない横顔をレインが見る先で、遠也はデッキからカードを引いた。

「俺のターン! ……確かに、俺のデッキは特殊召喚封じに弱い。特殊召喚は本当に生命線だからな」

 その言葉を聞き、ホワイトの生徒は笑う。遠也自らが自分の弱点を認めるその発言を、諦めの意思表示だと思ったのだろう。
 しかし、レインはそうは思わなかった。自分の知る遠也なら、ここで諦めるはずがないと確信していたからである。
 そして、その確信が違うことはなかった。遠也は静かに、けどな、と言葉を続けたのである。

「弱点を何とかする方法を用意していないとでも思ったのか?」

 そう言って、にやりと笑うと遠也は1枚のカードを指に挟んで裏側を見せるように立てると、そのカードをディスクに差し込んだ。

「手札から速攻魔法、《月の書》を発動! このカードは相手の場のモンスター1体を裏側守備表示にする。虚無魔人を裏側守備表示に!」

 月の書が開かれると、そこから溢れた光が虚無魔人を照らす。そしてその光を受けた虚無魔人はまるで浄化されるかのようにその姿を薄れさせ、やがて裏側表示のカードとなってフィールドに残った。

「くっ……! 効果モンスターの効果は裏側にされると発動しない……!」
「そういうこと。昔、同じようにシンクロを封じに来た奴にこれと同じ手で勝ったことがあってな」

 そう言って、どこか懐かしむような顔をして遠也は笑う。その顔を離れたところから見ながら、誰のことだろうかと首をひねるレインだった。
 ともあれ、これで遠也の行動を制限するものはなくなった。そして遠也の手札は3枚。ここからどうするつもりなのだろうか。
 レインは静かにその動向を見守る。

「更に、俺の墓地には《ヴェルズ・マンドラゴ》《ジャンク・シンクロン》《ドッペル・ウォリアー》の3体がいる。そして、俺の墓地に闇属性のモンスターはこれだけだ」
「ドッペル・ウォリアー!? そいつは除外されたはず……!」
「光の援軍のコストで、1枚墓地に送られていたのさ」

 あの時のカードの1枚か、とレインも遠也の言葉からその時のことを思い出す。
 そして、遠也は更に言葉を続ける。

「墓地に闇属性のモンスターが3体のみ存在する場合、このカードは特殊召喚できる。来い、《ダーク・アームド・ドラゴン》!」

 カードをディスクに置いた瞬間、ソリッドビジョンによって立体化する大きな影。
 万丈目がよく使う《アームド・ドラゴン LV7》の身体を黒く塗りつぶしたかのような黒いドラゴン。遥か頭上から対戦相手であるホワイトの生徒を見下ろし、ダーク・アームド・ドラゴンは低く唸り声を上げた。

《ダーク・アームド・ドラゴン》 ATK/2800 DEF/1000

「ダーク・アームド・ドラゴンの効果発動! 墓地の闇属性モンスター1体を除外することで、フィールド上のカード1枚を選択して破壊する! 俺は《ドッペル・ウォリアー》を除外して、虚無魔人を破壊する! 《ダーク・ジェノサイド・カッター》!」
「くっ……!」

 ダーク・アームド・ドラゴンの身体から生える鋭利な刃の一つが切り離されて宙を舞う。それは狙い違わず裏側表示となっている虚無魔人を直撃し、その姿を再度現させることを許さず、そのまま破壊した。

「この効果は1ターンでの回数制限がない! よって俺は更に《ヴェルズ・マンドラゴ》を除外して伏せカードを、《ジャンク・シンクロン》を除外して《サファイア・ドラゴン》を破壊する!」

 続いて2つの刃が空を飛び、指定した2枚のカードを破壊する。その様を、相手は信じられないとばかりに目を見開いて見つめていた。

「《次元幽閉》……! 《サファイア・ドラゴン》まで……!? そんな、1ターンでこんなことが……!」
「更に、《おろかな埋葬》を発動! デッキから《レベル・スティーラー》を墓地に送る! そしてダーク・アームド・ドラゴンのレベルを1つ下げ、墓地からレベル・スティーラーを特殊召喚!」

《レベル・スティーラー》 ATK/600 DEF/0

 墓地から場に現れるどこか愛嬌のあるテントウムシ。新たなモンスターの登場に相手はびくりと身体を震わせたが、その攻撃力を見てほっと息をついていた。

「攻撃力600か……。それなら、たとえ黒焔トークンを破壊されて、ダーク・アームド・ドラゴンの直接攻撃を食らってもライフは残る……!」

 しかし、そんな相手の希望を遠也が次に口にした言葉が打ち砕く。

「そして、俺にはまだ通常召喚の権利が残っている」
「なッ……なんだと!?」

 驚愕の声を上げる相手の前で、遠也は手札最後のカードを高く掲げた。

「さぁ出番だぜ、相棒! レベル・スティーラーをリリース! 現れろ、《ブラック・マジシャン・ガール》!」

 ディスクにカードが置かれると同時に、光が溢れてその中からポップな衣装に身を包んだ魔術師の少女が現れる。
 先が丸まった独特の形状の杖をくるりと一回転させると、それをトンと肩に担ぐようにしてダーク・アームド・ドラゴンの隣に降り立った。

《ブラック・マジシャン・ガール》 ATK/2000 DEF/1700

「あ、ああ……!」

 ダーク・アームド・ドラゴンの攻撃力は2800。ブラック・マジシャン・ガールの攻撃力は2000。そしてホワイトの生徒の場には黒焔トークンが1体のみ。
 普通に考えればこのターンは凌げる。しかし、ホワイト生徒は先ほどのダーク・アームド・ドラゴンの能力を忘れてはいなかった。

「更にダーク・アームド・ドラゴンの効果だ。墓地のレベル・スティーラーを除外し、黒焔トークンを破壊する」

 ダーク・アームド・ドラゴンの身体から再び刃が切り離され、相手の場に残っていた最後の壁を破壊した。
 これで本当に相手の場に攻撃を遮るものは一つもない。絶望が彩る相手の表情を前に、遠也は最後のバトルフェイズ移行宣言を行った。

「バトル! ダーク・アームド・ドラゴンで直接攻撃! 《ダーク・アームド・ヴァニッシャー》!」
「ぐッ!」

ホワイト生徒 LP:4000→1200

「そしてブラック・マジシャン・ガールの追撃! 《黒魔導爆裂破ブラック・バーニング》!」
「わぁぁああッ!」

ホワイト生徒 LP:1200→0

 2体の直接攻撃が決まり、ホワイト生徒のライフポイントを一気に削り切る。0を刻んだそのライフにより、このデュエルは遠也の勝利という形で幕を下ろしたのだった。
 負けたことがショックだったのか、対戦相手であるホワイトの生徒は膝をついて俯いている。そして「くそっ」と毒づくと懐から出した幾つかのメダルを力任せに地面に叩きつけた。
 それを見ながら、レインは思う。序盤こそ押されているかと思ったが、やはり皆本遠也という男は強いと。
 遊城十代のデュエルを初めて見た時にも思ったことを、レインはもう一度この時感じていた。二人に共通する、圧倒的なドロー力。今回のデュエルでも最後の引きはやはりかなりのものであった。
 十代もまた遠也と同等かそれ以上のドローを見せつけ、その類稀な力によって幾つもの危機を乗り越えているという。
 ふと、レインは一度十代と遠也それぞれに尋ねたことがあるのを思い出した。どうしてそんなにドローする力が強いのかと。
 そして、返ってきた答えは二人とも同じだった。曰く、「デッキを信じていれば、カードは応えてくれる」。なんとなくわかるようで、それでいて要領を得ない。そんな返答だった。
 だが、遠也の場合は更に言葉が続いていた。「精霊の加護っていうのか、カードの精霊には俺たちの力を底上げしてくれる不思議な力がある」。遠也はそう言ったのだ。
 普通ならただの偶然か妄想だと切り捨てるのだろうが、それを言った二人ともが精霊と心を通わすことのできる人物だ。一概に妄想とは言えないだけに、レインはその時おおいに困惑したものだった。
 あるいは、そんな言葉を当たり前のように言える二人だからこそ、精霊は彼らに力を貸しているのかもしれない。非科学的ながら、レインはそれが正しいことであるかのように思えるのだった。
 と、そんなことを考えていると、レインは遠也が膝をつく対戦者からいつしか視線を外していることに気が付いた。
 そして、その視線はその背後の森に向かっているようであった。そこに鋭い視線を投げかけたまま、遠也は口を開く。

「そこにいるんだろ? 出てきたらどうだ」
「……ほう、気付いていましたか」

 突然にすぎる遠也の声に、しかし返ってくる声があった。
 特徴的な低めの声。その声にはっとしたのは、膝をついたホワイトの生徒だった。勢いよく振り返ると、森から出てきたその人物に向かって畏れを込めてその名を呼んだ。

「さ、斎王様……」

 その声を聴くと、斎王はその生徒に目をやり、ひどく平坦な口調で言葉を返した。

「ああ、あなたの役目はもう終わりました。寮の方へ戻っていなさい」
「は? い、いえ、ですが……」
「――聞こえなかったのか?」
「っ! い、いえ、はい!」

 どこか苛立ちを込めたような声を返され、件の生徒は弾かれるように立ち上がるとホワイトの寮へと向かって走り去っていった。
 その後ろ姿を、遠也は見送る。そしてその姿が完全に見えなくなると、斎王に向き直った。

「労いの言葉ぐらいかけてやってもよかったんじゃないか?」
「何故? ああ、確かにあなたの足止めをするという役目は果たしてくれましたか」

 足止めとはどういうことだろう。二人から見えない位置にいるレインは、その言葉に疑問を抱く。
 そしてそれは遠也も同じであったようで、眉をひそめて問い返していた。

「足止め?」
「ええ。少々、遊城十代に用がありましたのでね」
「……あの鍵か」
「知っていましたか。そう、その奪還を外部のある高名な方に依頼しましたのでね。その方は遊城十代には有効でも、あなた相手にはそうでない可能性が高い。それで、少々こちらに付き合ってもらったわけです」
「そういうことね。さっきのアイツがお前からカードをもらったって言ってたから、何かあるとは思ったんだよ」

 はぁ、と溜め息をついて遠也は言う。
 そういえば、あの時の遠也はひどく怪訝な顔をしていたなとレインは思い返す。それはきっと斎王が何かしようとしていることを感じたためだったのだろう。今更ながらにそう思うレインだった。
 そして、肺の中の空気を吐き出した遠也は顔を上げて斎王を見る。その目は、ひどく真剣なものだった。

「それで? ここで前の決着でもつけるか?」

 鋭く、どこか挑発するような響きを持って発せられたその言葉に、斎王はしかし笑みを浮かべた表情を崩さない。
 そんな二人を見ながら、そういえば遠也と出会ったばかりの頃。落ち込んでいた遠也を十代がデュエルを通して励ました時があったな、とレインは思い出す。
 後から聞いた話だが、確か遠也がああなった切っ掛けが斎王とのデュエルだったはずだ。遠也が言っているのはその時のことなのだろう。
 そして遠也の口調からはそのデュエルに決着はつかなかったようだ。なら、ここでデュエルが成立すればそれが真の決着ということになる。
 果たしてどうなるのか。レインは注目して斎王の口が開くのを待った。
 そうして待つこと数秒、斎王は肩をすくめて力を抜いた。

「……やめておきましょう。こう見えて、私も忙しいのでね」

 どうやら、二人の決着は先延ばしになったらしい。斎王の言葉からそれを感じ、レインは二人のデュエルが見れず少々残念に思う自分を自覚していた。
 レインは遠也が負けるとは思っていない。残念に思ったのは、ここで勝てばこの島で起こっている一連の騒動が終わるのではと考えたからこそである。
 実際にはレーザー衛星ソーラや究極のDの件などもあるのでその限りではないが、詳細を知らないレインがそう考えるのも仕方がないことだった。
 そうして二人のデュエルはないとはっきりし、気を抜いていたところに斎王のある言葉がレインの耳に飛び込んできた。

「それに、あなたにはまだ隠し玉があるようでしたからね。ふふ……シンクロモンスター同士のシンクロ・・・・・・・・・・・・・・・・とは。それも、あなたのエースであるスターダスト・ドラゴンがその素材となっている。興味はありますが、私がそれを受ける立場になりたいとは思わない」

 ――え?

 思わずそんな声が漏れそうになり、レインは思い切り自分の口を押さえた。
 今、斎王は何と言った? たった今聞いた言葉をレインが思い返している間にも、二人の会話は続いていく。

「……なんだ、ここでお前を倒せばそれで終わりだと思ったのに」
「ふふ……あの時はディスクの不調のせいか失敗していましたが、次は判らない。あなたの運命が読めない上に奥の手の存在まで加わった以上、危ない橋を渡ろうとは思いません」
「………………」
「さて、そろそろいいでしょう。ではまたいずれお会いしましょう、皆本遠也……」
「あ、おい!」

 時間稼ぎはもう十分だと判断したのか、斎王はあっさりと踵を返して遠也に背を向ける。
 それに対して遠也は手を伸ばそうとするが、引き留めたところでデュエルが出来るわけではないうえ、どう対応すればいいか決めかねていたためだろう。どこか中途半端に伸ばしたところで手は止まり、結局それが斎王に届くことはなかった。
 結果的に何もせずに斎王を見送る形になり、遠也はがしがしと頭をかく。そしていつまでもこの場所にいても意味はないと考えたのか、遠也は地面に投げ捨てられたメダルを回収すると校舎の方に向かった。
 PDAを取り出し、短縮に登録してある番号を呼び出す。「もしもし、十代か?」そう電話口で話しながら遠也が森の向こうへと消えていく。
 それを確認してから、レインはよろめきながら隠れていた場所から出てくる。
 その表情はどこか青白くなっており、誰が見ても常のものではないとわかる程であった。

「……シンクロモンスター同士の、シンクロ……」

 それも、スターダスト・ドラゴンをシンクロ素材としていると斎王は言った。
 となれば、該当する召喚法は一つしかない。
 そして、遠也にはそれを行うべきパーツが全て揃っている。
 カードも、モーメントも、そして……恐らくはアクセルシンクロという召喚に対する知識さえも。
 更に言えば、それを実際に行うことすら遠也はしているようだ。それが、今の会話で明らかになってしまった。

「………………指示、を。仰がないと……」

 ぽつりと言葉が漏れる。そしてそれに従うように、レインは自分の部屋へと足を向けた。そこに置いてある通信装置へと。
 レインとマスターは一部の感覚を共有している。それが五感のうちの二つ。視覚と聴覚。レインのマスターはレインのプライバシーも考慮してくれたのか、一応オンオフ機能はある。マスターからの一方的なものではあるが。
 そして、さっきからこれまで、その機能はオンになっていた。
 つまり、今の一部始終をマスターは見ていたし聞いていたのだ。ならば、レインに対して新たな指示が来るのは明白。それゆえ、レインは早く通信装置の元へと戻らなければならなかった。

「………………」

 しかし、レインの足は覚束なかった。まるで、そこに行くことを身体が拒否しているかのように。
 それは、レインの胸中を巡る一つの考えがその足を鈍らせていたのかもしれない。
 レインの言うマスターは、遠也のことを危険視していた。アクセルシンクロのパーツを持っている男。モーメントを所持している男。だが、アクセルシンクロという概念は知らないだろうと判断したから、厳重な監視で留まっていたのだ。
 だが、これで遠也はアクセルシンクロを知っていることが分かった。シンクロよりも更に先にあるシンクロ召喚。モーメントをより加速させる、そんなシンクロ召喚を。
 これまでは、厳重な監視だった。だが……更に危険度が上がったであろう今は? 果たしてマスターは遠也に対して、どんな対処を行う?

「……――ッ」

 考えうる最悪の可能性が脳裏に浮かび、レインは口をきゅっと堅く結んだ。
 そうでもしないと、不安が口から飛び出して動けなくなりそうだった。
 しかし、やはりレインが一番優先しなければならないのはマスターだ。それは当然のことである。なにせ、それこそがレインの存在理由なのだから。
 ふらりと危なげな足取りでレインは歩く。
 その脳裏に浮かんでは消える親友や仲間たちの顔を、ずっと反芻させながら。



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